双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

彼岸迄

|雑記|


春の夜の嵐か。暴れる雨風が夜通し轟々と唸っては、
激しく硝子戸を引っ叩き、あたかも一晩の内に、強引に。
季節を入れ替えるのだとでも云わんばかりに。
そうやって夜更けまでを、只過ごした後、
まんじりともできぬ筈が、寝床へ入るなり、
すうと寝付いてしまった。嵐の夜が明けると、
外は凄まじい春霞に覆われて、むうと重苦しい
春の空気に満ちて居る。ちっ、やりやがったな。
実に一晩で、季節が入れ替わってしまった。
雨は上がっても、風だけは尚暴れ続けて居る。
春の彼岸。おはぎを拵えた。春だからおはぎで
なくて、牡丹餅と呼ぶべきなのだろうけれど、
”おはぎ” の字面と響き、両方の醸す佇まいが
好きであるので、通年是をおはぎと呼びたい。
もち米を炊いて掌で小さく丸めて、布巾の上へ
漉し餡を*1伸したのに包んで一つ一つ。
出来上がる傍からころんとしたのを並べてゆくのは、
やはり愉しい。いつしかふっと心ほどけて、
無粋なマスクの下の頬の強張りが緩まって居るのに、
はたと気付き、暑さ寒さも彼岸迄、とは云うけれど、
人の心も連れるものなのかも知れぬな、などと想う。
春の奴。なかなかにくいことをしやがる。

*1:拙宅では、いつでも漉し餡で拵える。

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