双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

鉛筆削り考

|モノ|


小学生の頃、文房具屋の棚には必ず在ったものだ。
あの、剃刀のよな刃で出来た、折畳み式の。
カッターと云うのでも無し。小刀と云うのでも無し。
大層薄っぺらく、せいぜい四〜五センチ程の大きさで、
筆入れにがさばらず、鉛筆を削るのには欠かせなかった。
随分昔に偶然見付けて、幾つか買い求めてあったのだが、
つい先頃、最後の一つが刃こぼれして、とうとう駄目に
なってしまった。比較的昔の文房具の揃う、近くの書店へ
出向くと、もう置かなくなってしまったねぇ。とのこと。
名を知らぬので、現物を見せて尋ねた訳だけれども、
果たして、あれは何と云う名の文房具なのだろか。
調べてみると、在った。在った。是、恐らくは商品名で、
正式な名では無いものと想われるが、通称 「ミッキーナイフ」
或いは 「ボンナイフ」 などと呼ばれて居るらしい。成る程。
手元のを見てみると、胴の部分には確かに "Micky" とある。
子供の時分の昭和五十年代には、既に手動・電動両方の
卓上鉛筆削り機が普及して久しかったし、今昔問わず、
小刀を充分に使えぬ不器用な子らが居たとは云え、
文房具屋を始め、学校の購買部でも普通に並んで売られて
居たのだから、需要は充分に在った筈なのだろうが、はて。
いつの頃から、あれを見掛けなくなってしまったか。
同じ刃物でも、機能の点で比べれば肥後守の方がずっと
頼もしいが、持ち運びの勝手の良さと、小ぶりで愛嬌の在る
あの薄っぺらな風体は、やはり捨て難い。単なる懐古趣味
と云うのでは無くて、先ず、刃を当てて鉛筆を削る行為そのものに
愛着が在るから、鉛筆削り機では具合が宜しく無いのである。
このナイフ。嬉しいことに、どうやら今でも立派に製造されて
居るらしいので、私のよに 「あれでないと、どうも…」
と云う人が、多くは無くとも根強く残って居るのであろう。


串田孫一氏の文房具にまつわるエッセイ 
『文房具56話』 は 「鉛筆」 の項より、一節を拝借。

小刀で鉛筆を削る楽しみを味わわずに大人になってしまう人たちは気の毒である。

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