双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

春の夜

|日々|


疾うに日の暮れた彼岸の中日は、冷たい風の轟々低く唸る中、
しかし止むを得まいなぁ、と切らした煙草を買いにゆく。
もう必要無いかと想われた毛糸の肩掛けを、出掛けの不精で
ぐるり首に巻き付け、草臥れたカーディガンの前立てを、
固く閉じ押さえた格好で、独り。向かい風に苦々しく
目を細めて前がかりに歩けば、一寸先の夜道の辻に、
どろりと濃い墨を垂れたよな闇が、ぬうと無言でぶら下がって居た。
幾つになっても、誰であっても。こんな風な暗がりは、
やはり、気持ちの宜しいものでは無い。おお、厭だ。
足早になるでも無く。立ち止まるでも無く。
ただ、低く。目線を伏せ逸らして通り過ぎると、
背骨の髄が幾らか、ひやりとしただろか。切れて久しい街灯。
近頃は、家々から漏れこぼれる灯りにも、事を欠く。
しかしまぁどうだ。昼間の陽気なんぞは、所詮阿呆の
糠喜びだとでも云いた気な、この、底冷えのする夜は。

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