双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

違和感よ、さようなら

|雑記|


ざあざあの雨の中、三か月ぶりで散髪へ行く。
三か月ぶりではあるが、いつもの不精からでは無い。
髪が充分に伸びるまで、わざわざ放っておいたのである。
と云うのも、昨年の冬以降は「特にこうしいたい」とも思わずに、
何となく美容師さんに、所謂”お任せ”で整えて貰って居た。
段を入れ、量を梳き、毛先を軽くし、前髪を長めに取って
全体を片側へ流した風の、今様のショートヘアである。
最初はどうもピンと来ず、しかしながら、そのうちに慣れたら
しっくり来るのだろ、とそのままお任せで居た訳だけれども、
日が経つに連れ、小さな違和感はじわじわと広がっていった。
ううむ。やはり”お任せ”は、私には向かぬのだなぁ。
勿論、美容師さんに全く非は無い。
控えめながら、大変にセンスの良い方で技術もお持ちだ。
「ホビさんは何処のお店でカットして居るの?」と
訊ねられることも度々在り、従って私自身がしっくり来ぬだけで、
世間一般的には、恐らく今様のお洒落な髪型なのであろう。
こちらから「こうしてくれ」と云う要望を特に出さぬのであれば、
余程にラジカルな美容師さんでも無い限りは、なるたけリスクを避け、
今様に無難に整えるのが最も間違いの無いもの、と思う。正しい。
故にそれをしっくり来ぬだとか、無難だとかと感じてしまうのは、
是はもう、完全に個人的な感覚の問題に他ならぬのだ。
さてと、一体どうしたものかしらん…。


そんな経緯から、凡そ三か月。
長さが伸び、厚みの戻るまで髪を放置して居た訳である。
「随分伸びましたね。いつもの感じで宜しいですか?」
「ええと、大変に申し訳ないのですが…」
やはり私は、ニュアンスだとか何だとか、そう云う曖昧で
モヤモヤっとしたのとは対極の、パキっとしたのが良いんだ。
後ろはきっちり刈り上げ。耳もきっちり出す。
分厚いトップを丸くして、前髪は一直線のショートカット。
世間では是を、マッシュショートなどと呼ぶのらしいが、
否々。そんな洒落たものなんかじゃ無い。
早い話が、即ち「坊ちゃん刈り」である(笑)。*1
仕上がりを見て、美容師さんはしみじみと仰った。
「ああ。やっぱりこの方が断然ホビさんらしいです」
うん、そうだ。その通りだ。


雨足の些か弱まった帰り道、何とは無しにふと思う。
違和感って、最初からはっきりと形の在る類のものと、
日を追う毎にじわじわ確かとなる類のものとが在って、
今回の髪型は、恐らく後者だった訳だけれども、
新しい元号は前者なのだろか。それとも今のこの違和感は
段々と馴染んでいって、いずれ気にならなくなるものかしら。
はて。そう云えば、平成はどうだったろう。
何だか宙に浮いたみたいな響きのまま、所在無いまま、
結局、最後まで肌に馴染まなかった気がする。
だから、気付けばいつも西暦を使って居たんだ。
歩道橋の上まで来ると、冷たい北風が傘を煽った。
こんな雨の日に、どうしてワンピースなど着て来たのだろ。
裾がびしょびしょになって、全く馬鹿みたいだけれど、
こんな風に清々とした気分は、ものすごく久々じゃなかろか。
数か月ぶりの刈り上げが嬉しくて、首の後ろを掌でさすった。

*1:とは云え、今様なのは、美容師さんがオシャレだからなのです…(笑)。

Rose di Maggio

|庭仕事| |写眞館|


五月。バラたちの季節。

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殆どがオールドローズの一季咲きなので、全員集合は今の時期だけの愉しみ。

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【L】マダム・アルフレッド・キャリエール (Mme. Alfred Carrière)
【R】サフラノ(safrano)


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【L】ラ・レーヌ・ビクトリア (La Reine Victoria)
【R】マダム・ピエール・オジェ (Mme. Pierre Oger)


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【L】カーディナル・ドゥ・リシュリュー (Cardinal de Richelieu)
【R】ロサ・ケンティフォリア・ヴァリエガータ (Rosa centifolia variegata)


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【L】バフ・ビューティ (Buff Beauty)
【R】ヴックス・カプリス (Vick's Caprice)


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【L】マリー・ドゥ・サンジャン (Marie de Saint Jean)
【R】ホーム&ガーデン(Home and Garden)

コーラルピンクな新顔のドイツ娘"ホーム&ガーデン"は、我が家で唯一の四季咲きモダンローズ。パッと見はクラシカルな花姿なのだけれど、こうして他のオールドなお嬢さん方と並べてみると云うと、ううむ。やっぱりどうにも現代っ子だわねぇ(笑)。


◆◆◆◆


”ラ・レーヌ・ヴィクトリア”が立ち枯れて庭から姿を消し、以来ぼんやりと寂しい心持ちで過ごして居たのだけれど、昨年挿し木から増やした幾つかの苗が開花してみれば、その内の一つが実に”ラ・レーヌ~”なのであった!*1
嗚呼、良かった。しっかりと育ってくれて嬉しい。鉢増ししながら大事に育てましょう。

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ヴィクトリアとオジェ。
今年も並んで姉妹仲良く、パチリ一枚。

*1:と云うのも姉妹同士の”マダム・ピエール・オジェ”とは、姉妹だけに花が開くまでは判別が難しくて…(笑)。

My little Sunday

|日々|


いつぶりだろ。こんなに感じの良い日曜日は。
店明けから一人、また一人と集い始めた心善き人たちが、
午後も途切れることなくドアを開け、仕事自体は忙しい筈だのに、
けれど不思議と穏やかで、ちいともわさわさと気忙しくなく、
理想的なリズムとバランスでもって、この中の全てが回ってゆく。
男性も女性も、一人の人も二人の人も。
本の中の世界へ沈む人。穏やかに語らう人。勉強に勤しむ人。
見知らぬ同士が思い思いに集い、其々の時間を過ごしながら、
こんな風に素敵な空気を作り出し、共有して居る。
嗚呼、ここへ長く在っても滅多にないことなんだ。
たまにぽんと降ってくる、奇跡のよな一日。
きっと私にしか分からない、とても個人的でささやかな。
それがいつ、どんな風にやってくるのかは誰にも分からないけれど、
こんな日曜日がまたいつか訪れることを、淡く祈ろう。


最後の客人は、週に一度通って下さる、目元のきりりとしたお嬢さん。
黙々と書き物をする間も、背筋がすっと伸びて居て羨ましい。
昼間の素っ頓狂な暑さに呆れつつ、夜はやっぱり肌寒いですね、と
おかしな五月を苦く笑ってお見送り。ご馳走様でした。またどうぞ。
ドアの看板を裏返し、レジを上げ、掃除を済ませて、珈琲を一杯。
何とも云えぬ充足と安らかさと共に、店を仕舞った。


あ、そう云えば。
たったの一度もスマートフォンのシャッター音を聞かない日だったな。

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