双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

番茶と白目と老眼鏡

|戯言|


短くも、市井の喧騒を離れた息抜きから、はたと気付けばもう一週間が経過してしまった。おお、早いこと早いこと。その間、只漫然と無為に過ごして居ったのかと云うと、決してそんなことは無く、忙殺されて能面のよな顔をしたか思えば、矢鱈と暇を持て余して阿呆のよな顔をするなどし、無為でも無いけれど、だからと云って有為でもない、ボンタン飴の味の如きぼんやりとしゃっきりとせぬ一週間であった。
例えば、あれやこれやの質問を浴びせながらも、いざ人の話には全く耳を貸さぬ、意固地勝手な高齢女性。定年退職後の今尚、当時のまんまの偉い役職に居るつもりで、人を下僕か何かみたいに云う、ひどく横柄な中高年男性。初めての来店にも拘わらず、一体どうした了見なのだか、あたかも常連気取りで振舞う、不躾な中高年女二人連れ。己らの車一台だけが、他の車も位置関係も完全に無視した、極めて妙ちきりん、且つ傍迷惑な停め方をし、それを別段どうとも思わぬ風の、思慮の浅い若い男女、などなどに好き勝手振り乱されては、その都度、心の中で白目を剥いて「エコエコアザラクエコエコアザラク......」と唱えながら、何とか正気を保って居た。
或いは、月に一度、片道二時間半をかけて遠方より通って下さる、はきはきとしながらも心遣いの丁寧な女性。『きりのなかのはりねずみ』を読むお母さんと、何故か『栞と紙魚子シリーズ』に夢中な小学三年生女子(眼鏡っ娘)の、微笑ましくも興味深い母娘連れ。「いつも長居をさせて貰って居ます」と度々美味しい豆菓子を手土産に持参して下さる、甘いもの好きの物静かな老紳士。自らも忙しい中、犬や猫の預かりボランティアを引き受けて居て、これからも出来る限り続けてゆきたいと云う、心優しき穏やかな御夫婦、などなどに接しては、嗚呼、やっぱりそうよね。そうなのだわね。と改心して、正しい人の道を外れずに済んだ。即ち、乳母車押し押し冥府魔道を歩まずに済んだ。
レジを仕舞う際、ジャーナルに印字された数字の6と8との判別が裸眼では難しく、いよいよ老眼鏡に頼らなくてはならぬし、昼を食べ損ねたまま夕刻になり、一旦は何か拵えようかと思うも、あーもういいや、と茶碗へよそった御飯に熱い番茶をかけてはサカサカ、しば漬けを乗せてはポリポリやったりして、我ながら粗末であるなぁ。でも是、結構好きなんだよなぁ、などとしみじみしたりして、しかしそれもまた日々。
やれやれ。

<