双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

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チャーリー・ブラウンと懐中しるこ

|縷々| |音| 郵便受けの郵便物を取りに表へ出ると、北からの風が びゅうと音をたてて、乾いた落ち葉を巻き上げて居た。 思わずカーディガンの前立てをぎゅっと掻き合わせて、 灰色の空の下。すっかり色寂しくなった山を見やる。 品性だとか思いやりだとか、そう云うものに 著しく欠けた人は何処にでも必ず居て、しかしながら 実際に目の当たりにしたり、実際に接するとなると、 気が遠くなって、暫し茫然自失の空白に彷徨ってしまう。 何故、私が?と考えてはいけない。 たまたま厄日であったのだ、と…

心の行方

|縷々| 近頃、本当に無欲になったな、と思う。 物欲と云うのか、私欲と云うのか。 あれが欲しいだとか、これが欲しいだとか。 あれがしたいだとか、これがしたいだとか。 どうしても。何としても。絶対に。 そんな風に思わなくなったら、不思議と余計な腹も立たず、 幾らか諦めが良くなって、何かがスコン、と抜けた気がする。 己一人しか満たせぬよな狭い欲よりも、もっと大切なものが在って。 自分のしたことが周りの役に立ったり、喜んで貰えたり。 それで自分自身も嬉しかったり、愉しかったり、良か…

八月随想

|縷々| 夏の印象の薄いまま、夏を見送る。 素っ頓狂な空模様に、慌しい夜具の足し引き。 八月を仕舞うと、九月をすっ飛ばして、 十月があっと云う間にやって来て、 そうして十月に入ると、もう年末が見えてくる。 感覚と云うのか、体内の暦と云うのか。 私の八月以降はいつも、そんな風だ。 ここ暫くは、野暮用も大事も急ぎも、 皆同じ線上に並んで、順に待って居るのを 只、手前から黙々と淡々と。 ぎゅっと集中して、取り組んで居た。 その間は、余計なことの割り込む隙が無いから、 シンプルで、規…

風に吹かれて

|縷々| 気忙しく、ささくれ立っただけの土曜日が残した土埃は、 未だ冷たい今日の北風に吹かれて、去った。 それと同じ風に吹かれて、素敵な調和がやって来て、 仕舞った後の店内に残されたのは、やわらかな尻尾の余韻。 こんな日曜日で終われて、良かった。

あわいにて

|縷々| 花冷え。薄曇り。風は強し。 白湯をちびちびと飲んで、ぐぐっと背伸びする。 久々の稽古へ向かう道すがら、農家の庭先。 花を終えつつある姿の良い梅の木の隣で、 寒緋桜がふっくらとした蕾を待たせて居る。 未だ少し寒々しい庭景色の中を、 丸々太った雄の茶トラが、悠々と横切る。 ちらり。こちらを一瞥した気がしたけれど、 くしゃみを二回して振り返ったら、もう居なかった。 三月の或る日。季節と季節のあわい。

ハレはハレ

|縷々| 年が明けてから日が経ち、徐々に日々が戻り、 しかしながら、正月が正月らしかったのかと云うと、 まったくもって、正月らしい佇まいなど希薄で、 元旦に見掛ける人の姿は、皆まるきりの普段着。 初詣へ向かう手にさえ、コンビニのビニル袋。 年始の御挨拶まわりも見掛なくなって久しい。 ”よそいき”と云うものが、忘れられつつある。 ”ハレ”と”ケ”を分けることも無くなりつつある。 尤も。 こうした事柄は今先程に始まったものでは無いし、 又、それを憂いたところで、どうともなるまい。…

針と糸と

|縷々| この冬は、久しぶりに編み針と毛糸を手にして居る。 最後はいつだったっけな、と記録を辿ったら、 実に一昨年の秋。随分と休んでしまったな。 杢調の灰がかった葡萄色のと、きれいな桑染色のと、 こないだ、袋売りの毛糸を安く手に入れたので、 セーターとカーディガンを、其々一着ずつ編みたい。 ずっと以前に編んだものは、あちこち汚したり、 ガス火で焦がしたり、引っ掛けて穴を開けたり。 すっかりよれて草臥れて、いよいよ引退である。 一旦は是らを処分しようとしたのだけれど、 ばらして…

二つの小包

|縷々| 今日、小包がふたつ届いた。 茶色い包みと、紺色の包みと。 送ってくれた人も、中身も全く違うけれど、 偶然同じ日に届けられた小包は、 どちらも嬉しい心遣いが詰まって居て、 じんわりと心があったかになった。 食べてしまうのが勿体無いよな、焼き菓子と。 小さい小さい可憐な花のペンダントと。 とても素敵で、心から嬉しくなって、 ペンダントを身に付けて、焼き菓子を頂いた。 私の毎日は、誰かから見たら平たくて小さくて、 決して変わり映えしないのかも知れないけれど、 ふとした折に…

仕合せの尺度

|縷々| 何をもって仕合せと云えるのか?は人其々だが、 私の場合なら、食う寝るに困らず、つましくとも 程々穏便に暮らせれば、それを仕合せと云っても 良いのじゃなかろかな、などと想って居る。 勿論、人間なんて欲をかけば切りが無いから、 何処で良しとするかは、その人次第であろう。 近頃、身辺に目立つ女性たち。 こう在るべきだとか、こう在らねばならぬだとか。 実際の、本来の姿よりも、己を良く見せよう、 大きく見せようと背伸びして、無理をして。 信じるものをころころと変え、過去を否定…

春の歩み

|縷々| 春雨と呼ぶのが躊躇われる、乱暴な雨に強い風。 しかしながら、夕刻を前に空は穏やかとなり、 靄をかけた山肌は、薄淡い水彩画の滲みを見せた。 未だ、日が暮れると肌寒いけれど、 一雨毎に、春は進むか。 庭先に、畑に、道端に、 水仙が咲き、菜花黄色く、桜は葉桜となり、 あたたかな色彩が段々と増えてゆく。

しんみり小屋倶楽部

|縷々| 超大型台風の通過に伴い、ここいらにも諸々の 警報や注意報が出されて戦々恐々となりつつも、 結果的には大雨程度で済み、ほっと胸を撫で下ろす。 夜が明けて、日々がいつも通りに営まれる。 ここでは何事も無かったかも知れぬが、 突然に日常の壊された土地と人々がある。 遣る瀬無いよな、複雑な想いが去来する。 |小屋仕事| 昼時に訪れた中高年主婦らの無神経さに、何だか一寸気が沈んだもので、午後の仕事の合間に抜け出して小屋へ行き、四隅に取り付けるコーナー板と、窓二つ分の化粧板の加…

毎日

|縷々| 毎日、毎日。 張り切ったり、気落ちしたり。 苛々したり、嬉しくなったり。 そっと心を殺したり、じんわり心に沁みたり。 そうやって一日が終わって、仕事を仕舞って、 或るときには、満ち足りた心持ちと共に、 或るときには、どっと押し寄せる疲れと共に、 家へ帰る。 毎日、毎日。 同じよでいて同じでない一日を、 今日も送り、また明日も。

お彼岸の花

|縷々| お彼岸の入りになると、Aちゃんにお願いして 出勤前に駅前の花屋さんで花を買って来て貰う。 この花屋さんは他所の店に比べたら小さくて、 数や種類を多く揃えて居る訳ではないのだけれど、 少数精鋭と云うのかしら。ちょっとめずらしいのや 気の効いたのを扱って居て、値段も良心的。 今年の花は、カモミールに藤色のスイートピー、 落ち着いた赤のガーベラと同じく小花のアスター。 Aちゃんとお店の人とで選んでくれたのだそうだ。 半分くらいに茎を切って西洋芥子の瓶に生け、 見慣れたアー…

のっぺりの淡々

|縷々| 日々がひたすら扁平に過ぎてゆく。 決して”無為”に過ごして居る訳じゃ無いけれど、 日々を淡々と只”こなして”居る、と云う感覚。 目の前の仕事を、役割を、日課を、淡々とこなす。 上ったり下ったりの、 そう云う起伏の無い、のっぺりとした日々だ。 「自分の人生を生きて居ない」 以前に投げかけられた その言葉の意味を、ずっと考えて居る。 自らが選んだ仕事への”責任”。 自らが引き受けた命への”責任”。 もしそれらを選択しなかったならば、 今とは全く違ったかも知れない、 自由…

山の肉

|縷々| 山で鉄砲撃ちをする人から、野生の猪の肉を貰った。 袋の中の塊は、どっしりと立派で、真っ赤で、 一昨日仕留めて捌いたばかりの、きれいな肉だった。 玉葱と茸と大蒜と一緒に、葡萄酒で煮込んだ。 拵えて居る途中、不意にお腹の空く感覚が蘇ってきた。 ここ暫くはずっと、そんな感覚を忘れて居たから、 自分でもちょっと驚いた。 生きて居るからお腹が空く。 生きるために食べる、と云う当たり前のこと。 夜、店を仕舞ってから、 出来上がった煮込みを、皿によそって食べた。 おかわりまでして…

立ち往生

|縷々| ここ最近、色々なことがいっぺんにやって来て、 あれもこれもで、何やらいっぱいいっぱいである。 ひとつずつ順に片付けられれば良いのだけれど、 先の見通しの立たぬ事柄も在ったり、 考えがまとまらずにごちゃごちゃだったり。 何とか動きたいのに、立ち往生なのである。 こんなときは悪足掻きを止めて、観念して、 只流れに身を任せてるのも、悪くないかな。 などと、云い訳してみる。

猫のお医者

|縷々| 不思議な夢を見た。 或る日、街場へ下りるのに団地の中の道を自転車で走って居ると、公園の角を曲がった先、かつて歯医者だった建物に養生幕が掛けられて、改築工事らしきが始まって居た。ここへは私も通ったのだけれど、随分前に先生自身が病に倒れて廃業、以来、物件が物件だけに買い手がつかぬままだった。そこへようやっと新たな所有者が現れたらしい。はて、一体何になるのだろ。また歯医者かしら。内心気になりつつも、その日は只通り過ぎて街場へ向かい、翌日になって、たまたま団地に住まう知人が…

八月の白昼夢

|縷々| 道路沿いの広大な敷地から、巨大な建物が ぽっかりと消えてしまった。住宅地の中の旧校舎。 廃材は片付けられ、すっかり更地にされて、 八月の熱の下、夏休みで人の気配を失った様は、 まるで、おそろしく静かな爆心地みたいだった。 バランスを失った新校舎。体育館も、運動場も。 おびただしい蝉の声ですら、静けさに吸い込まれ、 その空洞だけが、何処からも完全に孤立して見える。 真夏の中に浮かんだ、白昼夢のよな静寂の光景。

店仕舞いの後で

|縷々| 店を仕舞い、仕事を終えた後。 しばしば誰も居らぬ店内に、 独り腰掛けて、珈琲を飲む。 或るときは、角の卓に。 或るときは、窓際の卓に。 只ぼんやりすることも在れば、 本の続きを読むことも在る。 ほんの十分かそこいらだけれど、 そうして腰掛けて珈琲を飲んで居ると、 灯りの塩梅はどうかしら、とか 壁との間隔はどうかしら、とか。 何かしらの事柄に気付くことも在って、 そんなときは、一寸だけ手直ししたりする。 あんまりにも些細なことだから、きっと お客さんは気付かぬかも知れ…

倦怠

|縷々| 昨日の雨の残した湿気の所為で、 首から肩が重く、 どんよりとした眠気が纏わりついて離れない。 今日を包囲する、気圧の揺らぎと、ひずみ。 こんな日の単調さは、 一分、一時間を幾倍にも引き伸ばし、 こちらは只、それがのろのろと過ぎてゆくのを 受身で待つばかりだ。 たとい望まずとも。 退屈は嫌いじゃないけれど、 倦怠はひどく耐え難い。

人と人

|縷々| 忙しくて疲れて余裕の無いとき。 人は人に対してしばしば気遣いを欠き、 それを受けた側も、相手の事情を頭では 分かって居っても、つい返事に剣を含ませてしまう。 こんなとき、自らの未熟を悔やむのと同時に 人と云う生き物の、複雑な出来の悪さをも痛感する。

R.I.P.

|縷々| フィリップ・シーモア・ホフマン、逝く。享年四十六。 時折神様は、こう云う人を突然に連れて行ってしまう。 その死にざまが、何だかひどく芝居がかって居て、 もしかしたら彼の人生は、神様の作った 映画の中の劇中劇だったのかも知れないな、 なんて、感傷的なことを想ってしまった。 どちらが映画の幕を下ろしたのだろ。 ケイデンよりもずっと早急で、あんまりにも唐突な "Fin"。"おしまい"。 Jon Brion-Little Person きっと私たちの人生だって劇中劇で、 皆…

Coffee Blues

|縷々| 時折来店するお嬢さんが居る。数年前は高校生であったから、歳の頃二十歳になるかならぬかの学生さんか。とても物静かで繊細な感じのお嬢さんで、ぱっと見には分からないのだけれど、恐らく片方の足に障害を持って居る。いつだったか。いつも歩いて来る風なので、お住まいは近くなの?と聞いたところ、親戚がこの近くに居るのだが、お嬢さん本人は電車で四十分程離れた町に住んで居て、だから独りで来るときには、わざわざ電車とバスを乗り継いで来てくれるのらしい。不自由な足を抱えて。この日、彼女から…

主の居ない部屋

|縷々| 一昨年のこの日、主の消えてしまった家は、 今尚、そして恐らくは この先も閉じられること無く、 ずっとそのままに在る。 玄関も縁側の戸も開いたまま。 茶碗。湯吞み。読みかけの本。 削られた鉛筆の跡。映画。レコード。 主が居た頃と何一つ変わらぬ茶の間は、 つい先程まで人の住まっていたよな気配を残しながら、 其処だけが時を止めて居る。 訪れる者は、迎える者の居ない部屋に座り、 スケッチブックを開き、その人の記憶を辿るだろ。 只、主が不在と云うだけの、 永遠に留守の続く家み…

夏の終わり

|縷々| 鍼灸院で施術を終えた帰りに、何とは無し。 目鼻の先なのだから海へ行ってみよう、と想った。 昼下がりの海岸は海水浴場を仕舞った後で、只 しんと静か。波打ち際に並んだカモメらの他には、 離れた防波堤に釣り人が二人居るだけ。 遠く沖合いに、一隻の大型船が北へ向かう。 気温は高くとも、波音を運ぶ湿気の無い風は さわやかで心地良く、空には薄く引いた鱗雲。 もう、秋の気配が混じり始めたのだな。 堤防に腰掛けて、暫しぼんやりと過ごし、 昼寝の中にまどろんだ住宅地を抜けて歩けば、 …

どうでも良さそうなことがどうでも良くないときもある

|縷々| 例えば。 五千円を一回に使うのと、 五百円を十回使うのと。 結果として使う金額は同じだけれど、 五千円を使うときの方に躊躇が伴うのは、 おかしなものだな、と想う。 冷たい雨が降って、今日も薄寒い。 ざあとくぐもった雨音を聞きながら、 ビスケット齧って、ミルクティを飲む。

四十の私へ贈る

|縷々| 大人になるというのは すれっからしになることだと 思い込んでいた少女の頃 立居振舞の美しい 発音の正確な 素敵な女のひとと会いました そのひとは私の背のびを見すかしたように なにげない話に言いました 初々しさが大切なの 人に対しても世の中に対しても 人を人とも思わなくなったとき 堕落がはじまるのね 堕ちてゆくのを 隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました 私はどきんとし そして深く悟りました 大人になってもどぎまぎしたっていいんだな ぎこちない挨拶 醜く赤く…

書置き

|縷々| 連休からここ数日と云うもの、 お客から代金を貰って居るにも拘わらず、 いったい何なのだろか。この、 さながら搾取されて居るかのよな、苦い疲れ。 悪意無き、しかし、礼節無き人びとの持ち込む、 無自覚の、土足の、暴力。負の名残り。 そんな精神的疲弊にすっかり埋もれながら、 嗚呼、又連休が控えて居るのだったな、と 重い心持ちで暦を眺めて居たのだけれど、 今日一日は、薄曇りの空模様に少し似て、 ただ穏やかな佇まいで過ぎていった。 店仕舞いまで一時間程を残した頃。 仕事帰りな…

彼岸の者たち

|縷々| 北向きの窓から、すうと夜風が入り込み、 部屋を囲む、秋の虫たちの、ざわつき。 昨年の今日、人知れず旅立ったHさん。 先月、あまりにも突然に旅立った恩人Aさん。 そして爺さんを、共に暮らした日々を想った。 残され生きる者は皆、癒えはしても 消えることのない傷痕を確かめながら、 其々の年月を重ねてゆくのだな。 墨夜に遠い、くぐもった雷鳴だけが聞こえる。

不毛

|縷々| 自分の想うこと、意思が哀しい程通じぬのは、 必ずしも、こちらの接し方や説明に 何かしら問題の在ると云う訳でも無い。 何をどうしたところで、決して。 ことごとく。何処まで行っても、 永久に通じ合うことの叶わぬ不毛の相手 と云うのが、確かに存在するのだ。 ならば一旦そうと知ってしまえば、 気楽になるものと思いきや、 案外そうでも無かったりする。何故なら、 端から諦めて接することも又、それ自体不毛なのだ。 世界はいったい、どれ程の不毛で溢れて居るのだろ。

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