双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

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青君の旅路

|本| |回想| 『泣いた赤おに』と云うお話。幼い時分に初めて読んでから、もう数十年の月日が過ぎたけれど、今でも時折、ふっと思い起こすことが在る。心根のやさしい赤鬼が、お茶と手作りのお菓子でもって、人間をもてなしたいと考える。実にこの「おいしいお茶とお菓子でもてなす」と云う部分に、何故だか幼い私は心惹かれたものだった。それを食べてみたい、と云うのは勿論だったろうが、決して、それだけで心を惹かれたのでは無かった。部屋をしつらえて、お茶を用意して、お菓子をこしらえる。恐らく私は、…

コドモノリョーブン

|回想| 大きな木が一本と、子供がまたいで渡れる程のちいさな池。アトリエの木枠の窓から顔を出すと、丁度そこから、自然に任せた庭が見渡せたものだ。子供の頃、就学前から小学校を卒業するまでの間、私はと或る絵画教室に通った。便宜上教室とは云ったが、そこは拍子抜けする程自由な場所で、子供たちは学校が終わると好きな時間にやってきて、或る子は寝転んで、また或る子は椅子に座って、各々その日の課題を終わらせ、好きな時間に帰ってゆく。教わるのも絵画だけはで無かった。木版画、粘土、ローソク作りな…

ちんちくりん

|回想| 今朝は早くに目が覚めたこともあり、身支度に割く朝の時間に、いつもよか余裕が出来たので、とりあえず…と云う億劫も無しに着るものを選ぶ。芥子色のとっくりセーターの上に、青っぽい小花柄でフレンチ袖のプルオーバー。ヘリンボーン・ツイードのハンチング帽と、馴染みのジーンズで仕事に出掛け、いざ、花柄の前掛けエプロンをつけたところで、何気無しに覗いた姿見に写る自分を見て、咄嗟に独り言ちた。「あ。ちんちくりん。」 ちんちくりん。この言葉が共通言語であるのか、それとも、私たちの地方だ…

スクイージとアルネストのこと(2)

|旅| |回想| スコットランドで数週間を過ごした後。九月も半ばをまわった頃に、私たちはロンドンへと戻って来た。思いの他増えてしまった荷物に、長旅の間に鍛えられた腕力でもって何とか持ち堪えながら、バスを幾つか乗り継いで見慣れたドアの前まで歩いてくると、夏の間の騒々しさのすっかり去ってしまった宿は、玄関の外でおしゃべりに興じる若者の姿も無く、ただひっそりした静けさで私たちを出迎えた。たった数週間空けただけだと云うのに、宿の様子は随分と様変わりして居り、手狭なレセプションに座って…

スクイージとアルネストのこと(1)

|旅| |回想| 先日、探しもののついでに、古い写真のネガを整理するため、分厚くなった茶色い紙袋の中身をごそり取り出したところ、山のよなネガに混じって数枚の写真が出てきた。いつだったかの正月に従妹らと撮った写真。それと、二人のナポリ人の青年の写った写真。私は十年近くも前に旅先で知り合った、この二人の青年の名を、今でもはっきりと覚えて居る。 小柄でずんぐりした、人懐こさの滲み出る風貌が誰からも好かれたスクイージは、写真の中で、私がスコットランドから持ち帰った、タータンチェックの…

O先生のこと

|徒然| |回想| 丁度、去年の今頃だったろか。紅葉には、未だ早かった記憶が在るのだけれど。O先生とお友達の二人で、店に立ち寄ってくれたのを思い出す。それは確か二度目で、一度目はそれよりも一年前の夏、先生独りだったよに思う。新聞のタブロイド版か何かで、教え子であった私と店のことを知り、思いつくまま、びゅんと車を飛ばしてやって来たのだ、と仰った。O先生はそう、私が私立の高校に通って居た頃の、二年と三年のときの担任で、その頃の先生は、米国暮らしの経験の在る英語クラスの担任、と云う…

断片回想

|旅| |回想| 久しぶりに別行動の友人より先に、宿を出る。新聞紙に包まっただけの、無愛想なくらい洒落っ気の無い、バゲットのサンドウィッチを何度目かに買ったとき、その店の若い青年は、楊枝を口の端にくわえたまま、ぶっきらぼうに云った。「今度は夕方に来ると良い。半額になるよ。」 下町の人間特有の、粗野と人懐こさとの同居する微笑ましい矛盾を、無自覚に備えて居る。 会計を済ませて外へ出ると、美術学校の学生たちが向い側から歩いて来る。皆、昼休みなのだ。毎日の散歩コースになった、木陰の素…

Finding Nighthawks

|旅| |回想| 人っ気の無い、夜の店内で一人 珈琲を淹れて飲む。 外に車の往来は、殆ど無く、 そうか。もう、月末なのだっけ と、独りごちる…。 と或る街。終夜営業のコーヒーハウス。 夜遊びに惚け疲れた若者たちや、 仕事帰りと思しき看護婦、書きものに 没頭する青年など、深夜の古びた ボックス席に、ぽつりぽつりと点在する 人々。私は其処に座り、ただぼんやりと 数日前にエレベータの中で見掛けた、 切ない出来事を思い出す。 降り際、手動の内扉に手をかけながら 老人は小さく云った。 …

秋と冬の間をさまよう草臥れた革靴

|旅| |回想| ここ数日で、随分と秋らしい肌触りに なってきたのと同時に、鉛色の寒空の季節が 次第に、近づいて来て居ることを知る。 首もとに巻くマフラーは、深緑と白の 縞模様のが良いな。ツイードのキャスケット。 タートルネックのセーターの上に、 茶色いコートを羽織ったら、ポケットに 小銭をそのまま入れて、手ぶらで出掛けよう。 ソフトクリームを買い、公園を散歩しようか。 公園の中程まで歩くと、大きな木の向こう、 大学に在る塔が、上半分だけ見える。 学生風情の青年が、やあと挨拶…

吟遊詩人はポケットの中にマッチを隠す

|旅| |回想| |音| テキサス州オースティンから、ルイジアナ州 ニューオリンズへと向かう、夜行バスに乗ると いつも、ヒューストンで乗り換えになった。 長旅の時間の殆どは、大抵が 移動中の睡眠に取って代わるけれど、 それでも、車窓の景色が後方へと、流れ 過ぎ去ってゆくのを、何かを想いながら、 或いはただぼんやりと、眺めてみたりする。 あれは、いつだったろう。 ヒューストン〜ニューオリンズ間の何処かで、 夕暮れどきの車中、ふと目を覚ますと 右も左も、景色の全てが、水面になって…

Fantastic something

|旅| |回想| 1997年の夏、だっただろか…。アメリカを旅して居た私は、或る土曜日、テネシー州はナッシュビルにて長距離バスを降りた。しかし、まことタイミングの悪いことに、何やらその週は、カントリー・ミュージックのコンベンションらしきを開催中とかで、アメリカ中から人々が集まり、街中の宿と云う宿は、何処も彼処も満室。くたくたになってようやく見つけた先は、中心部より随分と離れた、ホリデーイン。長旅の疲労も手伝って、着いたそばからどさり、部屋のベッドに倒れ込んだ。 やがて目が覚め…

ペパーミント・パティの憂うつ:後篇(2)

|回想| (前回よりのつづき) さて。我らが「文芸同好会」の顧問探し。実は、既に目星はついていた。国語教師のM子先生。36歳。独身。日頃から私たちのよな、ちと毛色の変わったおかしな乙女らに興味などを持ってくれる、非常に稀有の理解者であったので、こと顧問に関しては誰もがM子先生で一致した。M子先生は、きっと快諾してくれるさ…。私とOちゃんは名簿をがしりと掴んで、職員室の扉を叩いた。M子先生は既に噂を耳にして居り、我々の申し出に対して「よかったあ!頼まれなかったら、どうしようかと…

ペパーミント・パティの憂うつ:後編(1)

|回想| (前回よりのつづき) ニ学年へと進級した私とOちゃんは、各々のクラスに分かれた。教室が旧校舎と新校舎だっため、互いの教室への行き来はそれ程無かったものの、同じ図書委員ではあったので顔を合わせる機会も多く、相変わらずのおかしな距離感を保ったままで居た。決して冷めて居たのではない。所謂、女子に在りがちな「べったり仲良しさん」が苦手だった私たちには、それが最も心地良い友人関係であったのだが、程無くして、同じクラスのK崎と云う女の子が「私、前からホビちゃんと友達になりたかっ…

ペパーミント・パティの憂うつ:前篇

|回想| 今しがた、押入れ深くの奥まったところで、 ビデオテープの入った段ボール箱を取り出そうと、 ガサゴソやっていたところ、丁度、箱の角が 旋毛の辺りを直撃。あまりのことに涙目になりつつ、 半分ヤケになって蓋を開けた。探して居たものは すぐに見付かったのだが、そこには何とも 懐かしき一本、当時の旬な男であった三上博史が 詩人・中原中也を演じたドラマ「汚れちまった悲しみに」も。 うわぁ、懐かしい…。 同時に私は、或る人のことを思い起こす。 Oちゃん。彼女とは、高校一年の時に同…

頬杖ついて日曜日退屈は指先へと続く

|回想| 思えば幼い時分、私はおかしな子だった。 当然、当時の私に、その自覚は無い。 本が好きで、休み時間にはいつも 図書室や、学級文庫から本を持ち出しては、 机に顎をつけて、突っ伏しながら黙々と読み耽った。 外で遊ぶことも、勿論在ったけれど、 本を読むのに熱中していると、 外に誘われても「今日は止めとくよ」 と、教室に居ることを選んだ。 作文も好きで、もっと作文の授業が在ったなら、 どんなに楽しいかしら…。 と、いつも思って居たりもした。 さぞかし内向的な子供だったか、と云…

青春袋小路其ノニ

|音| |回想| 今日はどうしてもこれが聴きたかった。 我が青春ノイローゼな二枚。ベン・フォールズ・ファイヴアーティスト: ベン・フォールズ・ファイヴ出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン発売日: 1995/12/13メディア: CD クリック: 2回この商品を含むブログ (27件) を見るGirlfriendアーティスト: Matthew Sweet出版社/メーカー: Volcano発売日: 1991/10/22メディア: CD購入: 1人 クリック: 21回この…

青春袋小路

|回想| 自分にとって青春時代というのは、 はて、いつだったのだろうか。 一般的には、高校時代辺りなのだろうが、 私の場合はもっと長かったような。 それこそ23〜4辺りまで青春だったんじゃないか。 何が良かったとか、特別なことが在ったとか そう云うことではなかった気がする。 ただただ毎日を、若さ故のおかしなテンションで ただただ生きていただけなのに、 それなのに何故か、そんな人生が まるで永遠に続いていくのだと、 そんな風に思っていたものだった。 しかしながら、心のどこかでは…

雨の音

|旅| |回想| 予報通り、今日は雨となった。 明日も天気が悪いらしいけれど。 こうしていると、雨音のおかげで外が かえって、静かになってゆくのが良く分かる。 それに混じって、蟋蟀が鳴くのも聞こえる。 猫はさっきからずっと、私から微妙な距離をとり、 寝たふりを決め込んでいるらしい。 またいつかの長距離バスでの旅を、思い出している。 深夜遅くに、乗り換えで降りただけの 誰も知らない、あまりにも小さな町での 煤けたよな、雨上がりの匂い。 カリフォルニアやニューヨークだけが アメリ…

旅の記憶

|旅| |回想| 他人の旅話を聞いたり読んだりすると つい、自分も旅に出たくなる。 それが無理ならば、 いつかの旅の記憶の品々を、 押入れの箱から、こっそり探し出してみる。 長距離バスのチケット。 折り目の擦り切れた地図。 誰かの書き込みのある、 破れて草臥れた時刻表。 そう云った品々を手にすると、 遠くにあった筈の旅の記憶は、ぼんやりと そしてやがて、確かとなって戻ってくる。 けれど、ときたま思うのは、 こうした旅の記憶の半分が、恐らく それを思い出したときに 作られている…

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