双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

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舌打

|縷々| 一枚減らした夜具のうすら寒さに呆れ、 身支度に長袖を重ねて着ては閉口し。 再びの寒さ出戻り、さながら開き直った 年増女の如き厚かましさか。しゃあしゃあと そ知らぬ顔して、潔く季節を譲らぬその様に、 こちらは落ち着くものも落ち着かず、こうして 懐の真ん中に腕を組み、心ならずも仕方無しと 分厚い靴下など履いて、苦々過ごして居る。 甘く見て、気を抜いた首元がすうと心細い。

夜風

|縷々| |本| 喉の中頃が何やらいがいがとして居て、 その上、頬の辺りもがざがざと乾いて 水っ気が薄く、どうも塩梅が宜しくない。 季節がちいとも季節らしい顔とならず、 照ったり降ったり曇ったり。はたまた やれ寒いの、やれ暑いのとなれば、 まぁ無理も無いことか、と髪を梳く。 尖ったお月さんの真上に、煌煌と星ひとつ。 まるで何処かの国旗みたいだな。 間抜け面の頬杖。無粋なくしゃみ。 須賀敦子全集〈第7巻〉どんぐりのたわごと・日記 (河出文庫)作者: 須賀敦子出版社/メーカー: …

誰も知らない

|縷々| 偏屈の強情張りが、不器用なりに 差し出した手は、さっと払われた。 一度目も。二度目も。云い訳は、 言葉になる機会を与えられぬまま、 目の前で只、ぴしゃりと冷たく閉ざされた。 そもそも、云い訳は只の云い訳なのだな。 己で自身の無能を重々知りつつも、しかし それをまともに噛み締めてしまったら、 どうして笑って生きられよう。だから。 しらばっくれて、知らぬふりをすることで。 私には何か。私でなければならぬ理由が在ると、 そう想うことで、今までを過ごしてきたんだ。 あなたは…

十一月

|縷々| 冷え込んだ空気が、鼻先をつうと刺す。 朝。タートルネックの上にセーターを着て、 それから寒空を見上げて、息を吸い込む。 夜。欠けたところの無い月明りの下で、 屋根瓦や枯野が銀色に光って居た。 まるでうっすらと薄い霜に覆われて、 ぼんやり、発光して居るみたいだった。 夜の部屋の中は、静かにしんと冷え冴えて、 編み針を持つ指先が、次第にかじかんでくる。 ココアの入った青いカップを掌で包んで、 唇を縁に付けると、もう熱が薄らいで居た。 一口飲んで、ふうと息をはく。

夜風と月と金木犀

|縷々| 夜風の中に、ふんわりと。 金木犀が薄く匂う。 鼻先にうっすらと、頼り無く。 半分だけ欠けた月。 今日の憂いは、夜風に流す。

大人になっても

|映画| |縷々| 魔女の宅急便 [VHS]出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホームエンターテイメント発売日: 1997/11/21メディア: VHS購入: 1人 クリック: 52回この商品を含むブログ (38件) を見る*1 どうしてかな。 この映画がテレビでかかって居ると、必ず観てしまうんだな。 そうして観る度にきゅうとする。もう充分に歳をとった筈だのにね。 或る日、自信を無くしたこの子の魔法が弱ってしまうのと同じに、 何かのどうかした拍子で、やっぱりひどく心の弱るとき…

落ちる

|縷々| 思いだせないものがある わかっていて、はっきりと 感じられていて、思いだせない。 思いだせないのは、 ことばで言えないためだ。 細部まで覚えている。 感触までよみがえってくる。 ことばで言えなければ、 ないのではない。 それはそこにある。 ちゃんとわかっている。 だが、それが何か それがどこか、思いだせない。 思いだすことのできないもので できているのが、ひとの 人生という小さな時間なのだと思う。 思いだすことのできない空白を 埋めているものは、 たとえば、 静かな…

|縷々| 智に働けば角が立つ。 情に棹させば流される。 意地を通せば窮屈だ。 兎角に人の世は住みにくい。 って、草枕だったかな…などとぼんやり。 ふと、何処かへ行きたいなぁ、と想う。 数日ぶりの晴れ間に幾度も幾度も雨を挟んで、 ぼんやりは終わらない。切手を買いに郵便局まで 出掛けると、冷房が効き過ぎて居てひどい。 局員らは皆半袖で、どうして平気なものかしら。 雨の上がった山肌から、白い靄が立ち昇って居る。 どうせまた、程無く雨になる。 嗚呼。一日がこんなに、永い。

|縷々| 考えるに、身の廻りにまつわる日々の些細と云うのは、 おしなべて、取るに足らぬものであることが多いものだが、 取るに足らぬものであるが故、おいそれ粗末に扱っては いけない。日々の些細が日々の積み重ねとするなら、 恐らくは、後々となって物を云う。万年筆の軸を緩めて外し、 空になったコンバータへちろちろとインキを詰めながら、 ふと、そんなことを想う。 文机の抽斗の縁にうっすら、白く埃が乗って居る。 たったの一日掃除を怠っただけだのに、怠りは目に見える 形で示されて、そうや…

そして丘をおりてゆく

|縷々| |本| 伸びた爪を切るのはいつも、夜。 夜爪はいけない。親の死に目に遭えぬ。 そう云う類の迷信を頑なに信ずるには、 随分と薹が立ち過ぎただろか。 終いに、指先をふうっとやる。 ― だれでも一度は丘を降りなければならない ― 丘を見つけた人だけが、その声を聞く。 それは、再び戻ることを許された人。 自分にぴったり合う靴を履いた人。 どこまでも歩けるよに、 きっちりと足に合った靴。 約束は、永い道の途上でも寄り添う。 かけがえの無い、小さな灯のよに。 けれども私は、丘を…

途中で

|縷々| ありったけの力で走ったりときどき歩いたりしながら ずっと これで良いのに違いないこのまま進んで良いのに違いないと想って ここまで来たらきっともう大丈夫だきっともう迷わないんだと想って ふと振り返ったら ただうすぼんやりしたのがゆらゆら揺れて居るのが見えるだけでかたちも何も曖昧で あぁ何てこった ちっとも分からなくなっちゃった どうしたかったのか何をしたかったのか憶えが無い訳じゃないけれど 確かに何処かで投げ出してしまったことがあって疲れてしまったことがあって けれど…

心遠く

|縷々| 廬を結びて 人境に在り 而も車馬の喧しき無し 君に問ふ 何ぞ能く爾ると 心遠ければ 地自ら偏なり 菊を采る 東籬の下 悠然として 南山を見る 山気 日夕に佳なり 飛鳥 相与に還る 此の中に真意有り 弁ぜんと欲して 巳に言を忘る 庵を構え、人里に住まっては居ても、 家を訪れる車馬の喧しさは無い。 自問する。何故そうも静かに暮らせるのか、と。 心が世俗を遠く離れて居る故、住まう所も自然と辺鄙になるのだ。 東の垣根のもとで菊を摘み、 ゆったりとした心持ちで、南山を眺め見る…

|縷々| 生温い南風が湿っぽい雨を引っ張って来て、 やがて勢いよく、春を知らせる風となった。 つられて明日は気温も上がると聞き、 就寝前、身支度の準備に些か難儀する。 終いに、抽斗から白い長袖を一枚出して、 箪笥の上に乗せた後、傍らの猫のすうと寝息を 聞きながら、唇の乾いたところに指をあてると、 ひび割れた真ん中が、ぴりっとなる。 舌先で小さく、ちろとなめると、 錆びた鉄のよな、鈍い血の味がした。

独りの時間

|縷々| 日々の中の独りの時間。気忙しさや人びとから ふと離れて、やわらかな孤独の訪れるとき。 小さな安堵に、ほどけて、ゆるむ。 相変わらず蛍光灯を切らしたままの、 仄暗い湯船にとっぷり、浸かって居ると、 連日観て居る向田ドラマの、暮らしの欠片が順繰りに、 ぼんやり、ゆらゆらとロウソクの橙に被さる。 寝巻きの上に羽織った、銘仙の半纏。 タイル張りの流し台と、洗い桶。 台所の床下の糠床。冬の部屋の火鉢。 その上でしゅんしゅんと沸く、鉄瓶の湯。

寄る辺無き季節に

|縷々| 洗濯物を取り込んだら、靴下が一足だけ。 履き口のところが未だ、うっすら湿って居た。 空の洗濯バサミの連なって、がらんとした物干しに 靴下一足が残されて、頼り無くぶら下がって。 季節の真ん中に触れたつもりで居たけれど、 もしかすると、こうして宙ぶらりんとして、ぽつんと。 冬にぶら下がって居るだけなのかも知れない。 するりと、こぼれて、落ちる。

まどろみ

|本| |縷々| 明け方、夢を見た。 行ったことも見たことも無いけれど、 そこは、コルビュジェの 「小さな家」 で、 こじんまりした一人がけに、背中を預けて、 やわらかな光に滲んだ、白い窓を見て居た。 清潔で、静かで、心地良くて。 膝掛けの上に置いた手が、あたたかかった。 目が醒めて、朝の冷気に頬が触れる。 洗面所の蛇口をひねると、つうとする指先。 まどろみから、強引に引き抜かれた気がして、 何だか、口惜しいよな心持ちになった。 小さな家―1923作者: ル・コルビュジェ,森…

冬の寝床

|縷々| うっすら雨の気配を感じて目を覚ますと、 冬の朝は未だ明けたばかりで、鈍く身じろげば、 夜具の僅かの隙間から、つうと冷たい空気が 入り込み、鼻先に触れ、再び眠りへ戻る。 取り留めの無い、様々の断片が瞼に重なる。 くすんだ青。ニオイスミレ。剥げかかった切手。 のろのろと、うつらうつらと。 意識は遠のき、冬の寝床へ戻ってゆく。

どこもここも、しんみりとしてきたのです。

|本| |縷々| ムーミン谷の十一月 (講談社青い鳥文庫 (21‐8))作者: トーベ=ヤンソン,Tove Jansson,鈴木徹郎出版社/メーカー: 講談社発売日: 1984/10/10メディア: 新書購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (7件) を見るさめざめと雨が降ってきて、午後はすっかりひそりとして。 そのまま、冷たい墨色の夜になる。 生姜のクッキーと熱いお茶。ぽつんと独りの安らかさ。 自分の持ちものを、できるだけ身ぢかに、ぴったりとひきよせるのは、な…

ちくり

|縷々| |本| 蟋蟀の鳴く声。夜も涼しくなると、窓の外から。 知らぬ間に重なって居た、憂いと煩いの澱。 ぼんやりの夜の掌から、不意に差し出されて、 何処かがちくりとする。鈍く広がる。 気付いて居なかった訳ではない。 気付かぬふりをして居ただけ、か。 ぬるい茶を一口飲んで、独り言つ。 まぁ、良いさ。悪足掻きは止そう。 待つことでしか、成せぬときもある。 内田百間―イヤダカラ、イヤダの流儀 (別冊太陽)出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2008/08/01メディア: ムック …

言葉の舟を漕ぐ

|縷々| 何処かの街の広場に沿った回廊。ぐるりの柱に もたれるのは、鳶色の髪の少女だろか。少年だろか。 私の視線は、俯瞰となって注がれて居り、 ああ、これは夢なのだな。と知る。 未だここは、夢と現の境目に近い。 枕に埋めた頬の上側に、ふわりとした尻尾の 微かに触れる感覚が在り、それは間も無く 夜具で覆ったふくらはぎに、とすんと身を横たえた。 現の遠くに、乱暴な雨音を聞きながら、 瞼の重さに抗わず、眠りを受け入れると、 意識は朧に、深いところへ、ゆっくり沈んだ。 小さく開けた窓…

訪問者

|縷々| 秋や冬、寒い季節の甘やかな感傷とも違う。 夏に感じるそれは、重たい湿り気を含んだ、 鬱々とした虚無に似て、寝苦しい寝台の中で 鈍重に纏わりつき、なかなか解放してはくれぬ。 そんなとき、私の志は、ひどく脆いよに想われる。 確かに、己の歩みを見付けた筈だのに、ひと度 夏のそれに捕われてしまうと、次第にぐらり揺らいで、 仄暗い水底へ、ずるり引っ張られてしまう。 水底から水面を見上げ、身動きも取れぬまま、 ただ、ゆらゆらと寝台に沈んで居るよな心地で、 朝の訪れすら、疑いなが…

木曜日の隙間からこぼれ落ちる一粒

|縷々| |音| 淡々と とつとつと こぽこぽと しゅうしゅうと パラパラと トントンと かたかたと かりかりと 気忙しさの輪から ぽんとはじき出されて こぼれ落ちて 残されたのは 日々の感触 日常の音たち [木曜日 隙間の一枚] Sonアーティスト: Juana Molina出版社/メーカー: Domino発売日: 2006/06/06メディア: CD購入: 2人 クリック: 15回この商品を含むブログ (50件) を見る

一握の砂塵の如き午後がするりとすべり落ちる

|縷々| 不確かな手触りと、薄くて遠い匂いと。 まろやかな日だまりの均衡が静かに傾いて、 やがて仄暗い翳りを落とすと、重たくひんやりした 夜の気配が、足下にうっすら、溜まり始める。 日曜日の名残りは寄る辺無く、境目の曖昧な 季節と季節の間に、ひっそり漂いながら、 納まりのつく場所を探すのだろか。 うつらうつらとして、夜に引っ張られる。

Cucurrucuru Paloma

|縷々| |音| 穏やかに過ごせたかと思えば、どんよりと 気の滅入るよなことも在るのが、世の常。 考えはぐるぐると頭を巡って、再び最初へ。 今の自分に出来ることと、出来ぬこと。 見たくない、知りたくないものたちに、 あえて気付かぬふりをして居たり。 ほんの束の間、ざわざわとした煩いから 遠ざかったら、また戻って来よう。 [夜の部屋の一枚]See You on the Other Sideアーティスト: Mercury Rev出版社/メーカー: Beggars Banquet発…

日々徒然

|縷々| 縷々と流れては、遅々と進まず。 諦めて放り出せば、糸の端は残り。 するりと掌からこぼれ落ちて、再び 帰って来るもの。もう戻らぬもの。 日々は流離い、繰り返す。 昨日と今日。 今日と明日。 建てつけの悪い引き戸みたいに、 ぎこちない音たてて終わる一日。 冬の乾いた空気に背筋をのばし、 新たな朝を、深々と吸い込む一日。 些細と深淵と。 縷々と遅々と。 日々の徒然。

薬缶の湯

|縷々| 冬の一日。 時間の流れは、滞るよにゆっくりと。 日々を紡ぐことを厭わず。 ただ、其処にあるものを迎え入れ。 切りの無い欲目に無頓着であれるよに。 小さき気配に敏感であれるよに。 金銭で得られる豊かさが、決して 豊かさの全てでは無く、むしろ 金銭で得られぬものの中に、愛すべき ささやかな事柄が在るのだ、と。 日々の暮らしを丁寧に、正直に。 高望みも贅沢もせず、清貧であれたら。 仕事の合間に針持つ手、動かしながら ふと、そんなことなど想う。

Trieste

|縷々| 街を、橋から端まで、通りぬけた。 それから坂をのぼった。 ます雑踏があり、やがてひっそりして、 低い石垣で終わる。 その片すみに、ひとり 腰をおろす。石垣の終わるところで、 街も終わるようだ。 トリエステには、棘のある 美しさがある。たとえば、 酸っぱい、がつがつした少年みたいな、 碧い目の、花束をおくるには 大きすぎる手の少年、 嫉妬のある 愛みたいな。 この坂道からは、すべての教会が、街路が、 見える。ある道は人が混みあう浜辺につづき、 丘の道もある。もうそこで…

掌に残ったもの

|縷々| |本| 夕刻をもうすぐに控えた午後の西日が、角の丸くなった 全集の背表紙を包み込み、やわらかに歪んだ光が 全体に差し込むと、やがて陰りに追いつかれるまでの 僅かの間。刻はゆっくり光に溶け込んで、 段々に輪郭を曖昧にしながら、そこに在るものの感覚を とろり、鈍らせる。あたたかな、薄ぼんやりした 橙色の時間の欠片をひとつ、切り取ってポッケにしまう。 夜の更けた頃に思い出して、それを取り出してみたけれど、 差し入れたポッケの中はひどく、ひんやりとして、 切り取った筈の橙色…

鳥とほくとほく雲に入るゆくへ見おくる

|縷々| |音| つんと刺すよな冷たい空気が降りてきて、知らず知らず 肩をすくめては、両の腕をさすってしまう、帳の頃。 群青色した空に、真っ黒な山の輪郭がくっきり浮かぶ。 寒い寒いと無意識に呟きながら、濃い目の珈琲を淹れ、 落花生を器に一掴み。殻をむいては口に入れ、 ぽりぽりかじって、珈琲の入ったカップに手を伸ばす。 しんとした店内に、かさかさ乾いた落花生の音。 気が付けば、器の中は殻ばかり。 [金曜日の一枚] This River Only Brings Poisonアーテ…

やりとり

|縷々| 朝から、随分と薄ら寒い火曜日となった。 カーディガンを羽織って一日過ごす。 午後から降り出した雨もまた、細々と。寒々と。 待ちくたびれた季節に、そっと声を掛けようとも、 返事は無く。けれどもそれは、無愛想 と云う訳では無い。高飛車なのでも、 冷たい訳でも無い。言葉交わさずとも、 心に留めるべきものは、ちゃんと受け取った。

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