双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ちいさなこと

|縷々|


畑で採れたばかりの玉蜀黍と胡瓜と大葉の刻んだので、さっぱりした酢の物拵えて、
ロッコインゲンは天ぷらに。鍋へ湯を沸かし、ほどいた素麺を茹でる。
夏の日差しの中に浮き上がって、暇になってぽっかり、空っぽの午後。
黙々としみじみと、咀嚼しながら、視線の先にかかった潾二郎の絵を眺めて居る。
イガイガささくれだった心が、すうと平らかになってくる。
とても律儀だけれど、やわらかな筆づかい。
大事に大事に描かれた、やさしい線。


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                              長谷川潾二郎『猫』(1966)

日曜予定

朝六時起床
朝食後アトリエへ入る。十二時まで三十分休憩。
アトリエへ、三時まで仕事。休憩一時間。
アトリエへ、五時まで。
夕方近所を散歩すること。
夜は十一時前に就寝。
一日一回必ずフランス語を読むこと。
アトリエはいつも掃除してゴミ一つ落ちていないようにすること。

長谷川潾二郎『詩と感想』(1965 ―1969)より


嗚呼、そうなのだ。
人の暮らしは無数の小さなことで出来て居る。
仕事をして、御飯を食べて、掃除して。
散歩の喜び。学びの喜び。
些細なことの積み重ねで、毎日が在る。
ささやかで、当たり前の、人の営み。
たかがそんなもの、かも知れないけれど、
そんなものこそが大切なのだ、と思う。
そんなものですら、ままならないと云うのなら、
それは、人が人らしくあれる世界じゃない。


日々の暮らしからかけ離れたところの、見たくればかりの大仰さ。
その強引な厚かましさ、何と云う白々しさよ。

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