双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

冬の光

|日々|


身辺がいよいよ物々しくなって参って、しかしながら、
平素より気を配って日々を過ごして居る者にとっては、
今更に慌てふためいて騒いで居る様が、実に奇妙に映る。
まあいいさ。自分は自分、他所は他所。
おかしな突風に巻かれて、自らの方向を見失わぬよに、
しかと立って、平らな心持ちでさえ居れば良いのだ。

不要不急の外出がいかんとなれば、我々喫茶店なんてものは、
まさに不要不急の最たるもので、真っ先に暇となる訳だけれども、
暇となったらなったで、やることはそれなりに在るから、
今日みたいに、寒さの和らいだ、風の無い穏やかな日は特に
庭仕事がさかさかと捗り、日中は殆ど是に時間を費やした格好。
お蔭でバラたちの葉取りが八割程済んだので、少しほっとする。

午後に郵便。注文しておいたオリーヴ材のボタンが届く。
一昨日編み上がったカーディガンへ、早速に縫い付けた。
ずらっと前立てに並んだ七つの木のボタンは、それまで何だか
のっぺりと眠たい顔だったところへ、ぽんと愉快な表情を与え、
そうすると今にも喋りだしそな気がして、面白いな、と思う。
早く是を着て、白い息吐きながら、冬の寒空の下を歩きたい。

いつも通り掛かる近所の小母さんに、鉢植えきれいだね、と
声をかけられる。○○駅前の郵便局の近くの花屋さんにね、
白黒の猫が居るんだけど、人懐こくてかわいいの。知ってる?
あら、そうなんですね。知らなかったぁ。
一メートルくらい離れて、マスク越しに他愛もない立ち話して、
お互い気をつけましょうね、と会釈して手を振った。


急に冬の西日が射してきて、辺りが淡い金色の光でいっぱいになった。
眩しくて、目を細めた額へ手をかざすと、手前から飛んで来た
山鳥の群れが横一列に並んで、金色の光の中へ小さくなってゆく。
見送るでもなく、只ぼんやりと佇み、暫く眺めて居た。

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