双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

長屋よ、さらば

|徒然|


落雷ごときで身辺慌しく青息吐息のところへ、
はてなの大家さんより届いた、一通の封書。
実に。遂に。
はてな地区再開発に伴う長屋横丁の取り壊しが
正式に決定した旨を知らせる通知であった。
立ち退きへの圧力みたいなものは、ここ数年
じわじわと感じては居たけれど、まさか来春とは。
嗚呼、とうとう来ちまったなぁ。この日が。


店子は希望すれば、新築のはてなマンションへそのまま移れる
と云うので、一先ず、がらんどうの部屋の鍵だけは受取ったけれど、
当然ながらピンとこないと云うか。据わりが悪いと云うか。
マンションと長屋との勝手の違いに、どうも戸惑って居る。
畳敷きの六畳間やら、こじんまりした縁側やら、物干しやら。
風呂は変わらずバランス釜だし、台所の煮炊きはガスコンロ。
他所と比べても古くさくて、変わり者も多いけれど、
皆、おもねらず、流されず。ささやかな信念を忘れず。
ピリリと気のきいた長文を書かれる方も多い。


風通しも良い。陽当たりも丁度良い。
猫好き。本好き。音楽好き。路地奥の居心地の良いお宅。
今では、他所の場所へ引っ越したご近所さんも在る。
永遠に主を失ったまま、訪れる人を迎えてくれる部屋も在る。
かく云う私自身も、ここ最近は留守がちだけれど、でも。
そんな愛すべきオンボロ長屋に、十四年も住んで居る。
かれこれ、十四年も。
これが辛く無い訳ないじゃないか。


ここは確かに電脳長屋だけれど、
暮らす人たちの人となりが、佇まいや姿勢が
そのまま場所の魅力を形作って居て、
唯一住みたいと思える場所だった。
何故「ここ」なのか。
六年前のエントリに綴った思いは、
答えと共に、今もずっと変わっては居ない。

双六二等兵「紙とペン」

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