双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

地味で分かりにくいこと

|日々|

水道管は凍て付き、日中の気温も五度に届かず。
恐ろしい程の無情な寒波の襲来に人足も遠のき、
気づけばもうじき、一月が終わろうとして居る。
暇も暇なら暇なりに。
暇だからすること、出来ることも在ろうさ。
ふと思い立ち、ここ一週間ばかりの間はずっと、
店内の設えをいじる、整えるなどして居た。
設えの調整と云っても、家具を移動するだとか、
何処かを大々的に変えると云うのじゃない。
只、地味に”灯り”を見直して居ただけである。


日が暮れて、夜。お客の引けた時間、
先ずは全ての席に自らが座ってみて、頬杖をついたり、
姿勢を正してみたり、猫背になってみたりしながら、
其々の灯りの塩梅だとか、種々との兼ね合いだとか。
何処に何がどのくらい足りぬのか、余分なのか。
色々と探って確かめて、そのままで良い所も在れば、
ここはいじった方が良いと思われる所も在り、
そうした場合には、最適と思われる塩梅となるまで、
じっくり思案し、試しては確かめる作業を幾度も繰り返し、
そうやって時間をかけて、少しずつ一つずつ、動かす。
電球の光量を小さいものと変えてみる。反対に
大きいものと変えてみる。あっちを外してこっちへ。
交換。移動。変更はその都度、帳面へ書き付ける。
それで解決しない場合には、照明自体を足してみるか。
どうしようかな…。あ、そうだ。
自室で長らく使われて居らぬデスクライトを思い出し、
是を試しに、読書灯として奥の卓に置いてみると、
隣の卓へも仄かに灯りが届いて、丁度良い塩梅に。
もう一カ所、灯りの不足が気に掛かって居た場所へは、
新たに小ぶりのクリップライトを買い求め、是を
腰板の縁へ取り付けたところ、当の卓だけで無しに、
やはり周辺へも好ましい影響をもたらす格好となった。


場所場所をひとつずつ整えた後は、一旦引いてみて、
全体の調和を見ながら、更に整えてゆく作業を重ね、
ちまちまと。ちびちびと。そんなこんなで一週間。
ようやっと光量程好く。陰影程好く。過不足無く、
何処へ座っても読み書きのし易い、あったかな灯りが
丁度良い塩梅の店内に仕上がったのじゃなかろかな。
煌々と明る過ぎるばかりは、平べったくて野暮で
ちいとも好きじゃない。読んだり、書いたりの、
機能としての程好い光量はきちんと確保しながらも、
灯りと陰影の集まりとして全体を見たときに、
あったかさと落ち着きとが感じられて、それが
店内の様々な物事と合わさって、調和した結果が、
その”店”の印象を形作るのだよな、と思う。


きっとそれは、はっきりと分かるものでは無いし、
言葉で明確に説明したりすることの難しいもの。
いつものお客さんが、いつものよに店に来て、
いつもの場所へ座って、いつものよに本を開いたり、
珈琲飲んで頬杖をついたりしたときに、ほんの少し。
「あ」と気付くか気づかぬか、そんな程度のこと。
けれど、それで良いのだ。
ささやかで控えめで、地味で分かりにくいけれど、
程好くて良い塩梅で、じんわりと心地良いもの。

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