双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

師走、謎のハンスト沙汰

|若旦那| |忍び|


師走である。師走と云えば、人の世では色々と忙しいと云うことになって居り、事実はどうであれ、小生も一応は気忙しいよな気になって、大した用も在りはしないのに「やはり年末は立て込むなぁ」などと嘯きながら過ごして居った訳なのだけれども、そんな師走も半ばを過ぎた十七日の日曜、それは突然に起こった。
いつも通りの夕刻。猫らの給餌を行おうと部屋へ行き、いつも通りの用意でいつもの通りの御飯*1を出し、さあさどうぞ召し上がれ。が、何やら様子がおかしい。いつもなら玄関を入った途端「御飯!御飯!」の大合唱だのにやけに静かで、二匹してちらと互いの顔を見やったかと思いきや、茶碗から後退り、のろのろと遠ざかってゆく。一瞬訝ったものの、嗚呼そうか。前日のカリカリに混ぜて出した鶏肉と大根のスープが大好評であったから、恐らくはいつも通りのカリカリが、一寸だけ色褪せて見えたに相違なく、従ってこいつは、ささやかな格上げの訴えのつもりなのであろう。確かあと一回分は残って居たな。と、再び鶏大根スープ仕立てにし直したものを供し、さあどうぞ。が、しかし。茶碗を覗き込むも、またもや二匹して顔を見合わせて、茶碗から遠ざかるのである。おい、どうした?暫くして気が向けば食べるであろう、と茶碗をそのままにしておいたが、結局、その晩は食べず終いのままとなった。


翌十八日、月曜の朝。平素であれば、七時の目覚ましが給餌の合図となり、腹を空かせた坊ちゃんらが、わーいと鳴きながら勢いよく寝床を飛び出して来るのであるが、不気味な程に全くの静か。鳴きもせず、飛び出しもせず。しかしながら、寝床の中で目を開けて起きて居る模様。「朝御飯ですよ」茶碗に御飯を用意して呼び寄せると、のそり起きてやって来た。が、またもや茶碗を覗いただけで、申し合わせた如く二匹揃って後退り。再び寝床へ戻って寝てしまったのである。ううむ。果たして是は如何に…。一旦、茶碗の中身を片付けた後、再びカリカリを少量入れて置いて暫し様子を見ることとした。その後、外出し昼頃に戻ると、相変わらず茶碗の中は朝のまま。鶏肉を茹でてほぐしたものや鰹節などを試したところ、やはり二匹して顔を見合わせて後退り。しかしながら、程無く忍びちゃんがそろりとやって来て、鶏肉を少し口にしたので、おっ。食べた!が、直後に嘔吐し、主あわわと慌てるも、当の本人は吐いてすっきりした模様である。
嗚呼もう、お前たち。一体何がどうしてしまったのん?見たところ、何処か体の具合が良くない風でも無いし、仮に良くなかったにしても、二匹一緒にと云うのはおかしい。逐一、互いの顔を見合わせる様子も実に気になる。ひょっとすると、どちらかがもう一方に同調して居るのかも知れぬなぁ。
同日夕刻。太極拳の稽古から帰ってくると、二匹くっついて布団の上。サーモンベースのウェットフードに温かいスープをかけたものを用意してみるも、相変わらず揃って後退り。一応、茶碗を覗いて鼻先を寄せる素振りは見せるので、全く食欲が沸かないと云うのでも無いのであろうが、全く不可解なのは、若旦那の様子だ。食べ物に関しては異常なくらいの執着を持つが故に、茶の間で菓子袋の”カサッ”と云う音など僅かでも立てようものなら、物凄い騒ぎ様なもので、そりゃあもう大変なのだけれども、その若旦那が主の食するパンに対して、ほぼ無反応なのである。是は只事じゃない。


十九日、火曜日の朝。相変わらず目覚ましにも反応せず、御飯も食べず。たった二日の間に、毛皮がバサバサとなり、心なしか顔も一回り小さいよに見える。昼頃、様子見に行くと若旦那が餌場でうろうろして居たので、茶碗からカリカリを五粒ほど掌に取ってやると、かなり慎重な風ではあったが、口にした。お、是はいけるかな?と思ったのも束の間。数分後にえずき出してしまい、忍びちゃんが心配そに寄って来た。ううむ。こいつはひょっとすると若旦那の方に何らかの原因が在って、忍びちゃんがそれに同調して居る可能性が濃厚である。やはりお医者へ診せるべきか。事が起こって約二日。もう一日様子を見ても良いのだが、明日の水曜日は休診となってしまうから、そうなると今日診てもらうのが賢明か。夕刻。かかりつけへ予め連絡した後、バックパック式のキャリアーを二つ抱えてお医者へ向かったのである。
して、先生の診断は如何様であったかと云うと、案の定「特に不具合は見付からないですねぇ」 二匹とも体温は平熱。心音も触診も異常無し。便中に寄生虫やおかしな菌も見当たらず。結局、原因は不明と云うことで、二匹共に何故か吐き気止めの注射を施され*2、翌日からの飲み薬としてやはり吐き気止め、及び胃粘膜の保護薬を四日分処方されて帰って来たのであった。尚、一先ず四日間これらの薬を飲ませ、それでも尚症状が変わらぬようであれば再度来院し、血液検査等のより積極的な検査をする必要が在るとのこと。帰宅後、緊張がほどけたのであろう。二匹して水鉢からごくごくと水を飲み、毛繕いも早々に、布団の上でぎゅうぎゅうにひっついて居た。やれやれ。つくづく不可解な連中であるよ…。
【後日談へ続く】

*1:各々のカリカリ+ハーブパウダーや酵素などの補助食品+ぬるま湯の”つゆだく飯”。

*2:曰く「吐き気止めで気持ち悪い感じが無くなれば、食欲も出ると思うので」とのこと。そもそも吐き気が在ったか否かは不明なのだが…。

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