双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

秋になった

|日々| |音|


昨日、いつもの通り道の民家の前。
何とは無し、ふと視線を落とした足元へ、
薄い橙色の小さな粒が散らばって居た。
あ、そうだ。金木犀の木、在ったっけ。
手入れもされぬかわりに、育つばかりに大きく育ち、
いつもこのくらいの時期になると、ふんわり。
あの香りが風に流されて漂ってくるのだけれど、
確か、夏頃だったろか。家の人と思しき男性が、
慣れぬ手つきで高枝バサミを動かすのを見た。
さっぱりと刈り込まれた、と云うのじゃなしに、
ただ無節操に、ただ無思慮に、ばっつりと。
枝を落とされて、ひどく不恰好となってしまって、
殆ど、花をつけることも無かったのだなぁ。
にも拘わらず、こうしてほんの僅かばかりに
花を咲かせ、それがほんの僅かばかり道端へ散り、
ひっそりと、季節を知らせて居たのであった。
その晩の空気に小さな予感がして、明けた朝。
すとん。空白が秋へと入れ替わって居た。

Leave to Remain

Leave to Remain

朝の猫たちのひんやりと湿った鼻先。瞳に入る光。
朝日のあたったところが少し温もってくると、揃って目を閉じる。
店を開け、表へ出たら、風も雲の流れも、やっぱり秋だ。
午後。仕事の合間に簡単な草花の手入れなどし、ふと
バラの鉢植えの陰を見やると、香箱を一寸崩した格好で
すっかり寛ぎきった様子の、剣菱嬢の寝姿が在った。
昼下がりの日差しは、程好く雲を通してやわらかく、
ふっさりと豊かな毛並みが、秋の陽をたっぷり含んで光って居た。

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