双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

五月逍遥

|雑記|


■五月某日
午後。近所のスーパーへ行く。食料品の買い物へ行くときには、いつも買う物を決めてから出掛けるので、店に入ったら目当ての棚のところへ行って、目当ての品物を籠の中にさっさか放り込んで、さっさか会計を済まして、さっさか帰って来る。この日の買い物は、牛乳とヨーグルトと飴。乳製品の棚で牛乳とヨーグルトを籠に入れてから、飴の棚へ回ると、飴の棚の前に丸々とした小柄の小母さんが一人。背中を丸めて棚へおでこをくっつけるよにして、じいと品定めして立って居たので「あ、一寸すみません」と声を掛けてから、右腕をにゅっと伸ばして、ハッカ飴と純露をぱぱっと掴んで、ささっとレジへ向かおうとしたら、ハッと我に返った小母さんがこちらを見て「奥さん。それ、そのハッカの美味しいの?」と聞く。私は奥さんじゃないけれど、奥さんと違いますとは云わずに「はい。余計なものが入ってなくて、さっぱりして美味しいですよ」と答えた。「やっぱりそうなんだ。だってほら、奥さん、迷わず選んで籠に入れたから、美味しいのかなあってさ。じゃあ、買うわ」小母さんはハッカ飴をひとつ籠に入れると、すっきりした顔をして、真ん丸いパーマのかかった頭をちょこんと下げて会釈して、野菜の棚のほうへ歩いて行った。


■五月某日
午後。近所のスーパーへ切らした牛乳と茄子を買いに行く。買った品物を台の上で手提げ袋に移しながら、ふと目に留まった『お客様の声』を何とは無しに読んでみる。「○○町。男性。六十代。ご意見:ソウザイのこと。串カツの玉ねぎが多いので、もっと肉を多くしてほしい(値段はそのままで)」その下に、子どもが描いたみたいなよれよれの串カツの絵が在って、左から肉、玉葱、肉、玉葱、肉。つまりこう云う風に串に刺してくれ、と云うことなのであろう。私はここで串カツを買ったことが無いから、実際の串カツがどんな風なのか分からないけれども、値段はそのままで肉ばかり増やしてくれと云うのは、随分と図々しいのもだな。下手くそな絵なんか描いて。いい歳をした大人がみっともない、と呆れてくったりした。お客様の声は他にも沢山在るだろうに、よりによってこんな間の抜けた小父さんのをわざわざ張り出すと云うのは、きっと、お店の小意地悪なんじゃないか、と想う。当の小父さんは是を見たのかしら。見たとしたら、恥ずかしくなったかしら。


■五月某日
午後。表で鉢植えの水遣りをして居たら、通り向かいを歩く小学生の子どもら(多分二年生くらい)の会話が聞こえてきた。「サイトウ君、豚肉嫌いなんでしょ?」「嫌いじゃないよ」「えー。だってトン汁の豚肉だけ残すじゃん」「え?トン汁に入ってたのって、豚肉だったの?オレ、ずっと牛肉だと思ってたヨ!」「トン汁の”トン”は豚だってば!ばっかだなあー」ばっかだなあー。可笑しくなってついブッとふき出してしまったが、もしかすると、サイトウ君は今の今まで豚肉のことを牛肉、牛肉のことを豚肉だと違って覚えて居たのかも知れず、でもそうだとすると、何だか余計にややこしくなってくるので、あれこれ立ち入って考えるのは止そう。そう云えば、給食だとか炊き出しでは、しばしばトン汁が出るものだけれど、我が家でトン汁が食卓に上ることは無かったなあ、と気付いた。味噌汁の具は、わかめだとか野菜だとか豆腐なんかで、そもそもが私にして母にしても、それ程トン汁が好きでは無いのだと想う。

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