双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

見えない相手

|太極拳|


雨降りの本日の稽古は、欠席者多数。一度皆で通した後、ベテラン組と二手に分かれて其々の稽古を行う。初心者組は私とHさん*1の二名のみ故、稽古は個人指導となった。そして私はいよいよ先生直々に、十三式〜十五式までの指導を受けることと相成り候。
「先ずは一人でやって見せて下さい」”高探馬”を終えた姿勢を構え、其処からYさんに教わったよに、右蹬脚〜双峰貫耳〜転身左蹬脚と続けて通すも、案の定、先生は渋い顔である。



「ええとね、流れは理解して居るみたいだし、形も大体覚えて居るんだけど、細かい所は全然駄目!」先ず、手と足。つまり上下の動きが連動せず、上下相随となって居らぬこと。そして、套路の進行方向のズレ。前者の要因は、きつい体勢から楽になりたい気持ちも手伝ってか、つい手が先へ先へと急いで、結果として足と合わなくなってしまい、後者については、体の開きや足の角度が曖昧だから、本来の進行方向から少しずつズレて行ってしまうのらしい。
「Yさんの指導は、何だかホビ野さんに甘いなぁ〜(笑)。僕は細かい部分も、うるさく厳しくビシビシやるよ!」と先生。ううぅ、お願いします...。次の動きへ移る際の爪先の角度(大概が45度か90度)をしっかり頭に入れ、一つ一つ套路を分解しながら指導を受ける。「はい、そこ駄目!向きは直ったけど、今度は手の位置が高過ぎ!」”双峰貫耳”での両拳をグッと上げる動き。因みに是は、対戦相手のこめかみを拳で押さえ込む動作なのだけれども、先生曰く「対戦相手は自分と同じくらいの背格好を想定しなさい。ホビ野さんの拳の位置からすると、相手の身長は180cm以上もあることになっちゃうでしょ?」嗚呼、そうか。「見えない対戦相手が目の前に居る、と常に思いながら動くんです」そうすることで、其々の套路の手の位置や体勢などが、自ずと正しく決まってくる、と。「それから、上下相随だよ!上下相随!」半時も集中した厳しい指導が続き、さすがにへとへとになったところで、休憩。
「どう、難しい?もっと簡単だと思って居たんじゃない(笑)」いえいえ、決してそんなことは...。「僕が常々口にする”形だけ覚えても駄目ですよ”って理由が良く分かったでしょう。”太極拳は武術です”ってのも。一見何てこと無い套路の動きにも、一つ一つ意味と目的が在るんですよ」しかし、先生はちゃんとフォローもお忘れにならなかった。「ホビ野さんは体幹も筋力もしっかりして居るし、資質が十分に在るんだから。上達するには、細かな部分を疎かにしないで、根気強く、正しく出来るよになるまで繰り返し練習することです」その後、窓際で一人黙々と、見えない相手を前に、右蹬脚〜双峰貫耳〜転身左蹬脚の自主練習を続けた。蹬脚、きついなぁ...。翌日の筋肉痛は必至である(笑)。

*1:すらりと細身な白髪の年配紳士。体は硬いのだけれど、動きに変な力みが無く、実にゆったりとして居るため、その佇まいから、私はHさんを密かに”老師”と呼んで居る。

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