双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

舎弟先生と冬空のHang on

|散策|


上と下とに挟まれて、近頃いじけ気味の舎弟先生*1と共に、予てよりの約束で、電車に乗って隣町散策へ。昼頃に到着し、寂れた商店街をてくてく歩く。
「伯母ちゃまと二人で、電車でお出掛けするの、初めてだね!」「そう云えばそうだねぇ。あったかくなったら、今度は動物園かな?」
小さな食堂で、舎弟先生は炒飯、お伴はラーメンを食す。その後、途中で公園に寄ったり、神社に寄ったり、裏道をぶらぶらしながら散歩し、風が強くなって来たところで馴染みの喫茶店。未だ、午後の早い時間帯の所為か、珍しく静かな店内。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」「はい。ご無沙汰して居ります」マスターも変わらずお元気そうだ。舎弟先生はアイスクリーム、お伴は珈琲で、ほっと一息。幼稚園のことや、工作で拵えたボールのことなど、次から次へと舎弟先生の口からは、色んな話が飛び出す。散歩だって大好きなのだけれど、義妹も弟も、家事子育てに仕事にと其々に忙しくて、こんな時間がなかなか取れぬのであろうな。社会的にも金銭的にも、全く甲斐性の無い伯母ちゃまだけれど、こうして時折連れ立って何処かへ散策に出掛けたり、尽きぬ話をしみじみ聞いてやったり、そんなことならお安い御用。いつだってしてあげるさ。
お会計済まして、年の瀬のご挨拶を交わして、暖かな店の中から表へ出ると、まことに冬らしい、きんと澄んだ風が冷たい。帰り道も、舎弟先生は実に嬉しそうで、自作の下手くそな鼻歌を歌いながら、下手くそなスキップを踏んで居た。連れて来て良かったな。途中でドーナツと鯛焼きを買い求め、駅の待合所のベンチに座って、鯛焼きを半分こして食べる。「ねえ、伯母ちゃま。また電車に乗って、また来ようね」「うん、また来よう」「ボール君も一緒だよね」舎弟先生は、自分で拵えたお気に入りのボールを、肩掛け鞄から取り出して、大事そうに小さな掌で包んだ。
程無くして入線のアナウンスを聞き、身支度してホームへ出た。舎弟先生と並んでホームに立って、雲ひとつ無い真っ青な年の瀬の冬空を見上げたら、ふと頭の中に浮かんで来たのは、何故だかTFCの”Hang on”のメロディだった。もう、一年が終わる。

*1:小僧先生とは三つ違いの幼稚園年長組で、性格は内弁慶。趣味は工作と昆虫と泥団子と猫。元々甘えん坊だったのが、昨年、下にお嬢が生まれたことで、家庭内の甘えバランスが崩れ(笑)、ここのところずっと、いじけていらっしゃるのである。

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