双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

あの娘の訪問

|猫随想|


連日のよに雨が降り、八月とは思えぬよな涼しい日が続く。賢い娘だから、こんな日には人の出入りの少ないことを知って居るのだろ。雨宿りを兼ねてか、剣菱は早い時刻にやって来て、軒下の目立たぬ所で昼寝などして過ごす。午後の雨上がりに、小屋の中で工具類を整理して居たら、いつの間についてきたのか。小屋の入り口から、中を覗いて居たものだから「おや、来たの?入ってみるかい?大丈夫だよ」そう声を掛けると、先ずは顔だけにゅっと差し入れて内部を見回し、念入りに彼女なりの安全確認を済ませた後、そろりそろり。ゆっくりと入って来て、入り口に敷いた養生用の段ボールの上へ、ごろんと横になった。あらら。まさか、本当に小屋に入ってくれるとは思わなんだ。
「どう?気に入った?ここは誰も来ないし安全だからね。未だ作りかけだけれど、何か在ったときには、いつでも避難小屋に使って良いよ」剣菱はゆっくり両目でまばたきしてから、大きく前足を伸ばしてあくびをする。少しの間、私も奥へ座ったまま、そうやって只、二人して、あっちとこっちとに離れて、小屋の中。やがて、再び大きく伸びをした剣菱は、小屋を出ると細い砂利道を何処かへ歩いて行った。
いつものよに、しっかりした足取りの、小さな後姿を見送った。気が向いて、またこの小屋を訪ねてくれたら、嬉しいよ。



きゅっと意志の強そな、凛とした、あの娘。いつでも小屋へいらっしゃい。

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