双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

陽だまりの娘

|猫随想|

剣菱は相変わらず日参して居る。
至極稀に姿を見せぬ日も在り心配させもするが、
大抵夕刻近くには姿を見せ、裏口横で餌を食べると
再び軒下へ戻って来て、ちゃんと人目につかぬよに
柱と鉢植えの陰の、丁度死角となる塩梅のところへ、
小さく伸びて暫しゆるりと寛いだ後、おかわりを催促し、
腹も心も満たされると、とことこ何処かへ帰ってゆく。
相変わらず用心深く、相変わらず触れないものの、
手から餌を口にするのはすっかり馴れた風で*1
しかしながら、野良として暮らす猫を必要以上に
人に馴れさせるのは賢明ではないと考えて居るので、
関わりには、互いの信頼の上で距離を保つことを忘れず、
勿論、剣菱もその点については十分に心得て居て、
我々以外の人間には警戒を怠らない。聡い猫である。
又、不妊手術により要らぬトラブルやストレスから
開放されたことで、恐らくは精神的にも肉体的にも
相当楽になったのだろ。だいぶ穏やかな顔付きとなって、
近頃はおかわりをするなど、小柄なりに食も太くなってきたし、
季節柄、陽だまりにのんびり寛いでゆく時間も増えた。
剣菱が家猫で無い限り、目の手の届かぬところで
守ってやることができないのは、何とも歯痒くあるけれど、
こうして私が彼女の信頼を得、その命の一端を預けて
貰って居ると云うのは、大きな責任を感じるのと同時に、
嬉しくもあり、実に有難いことであるなぁ、と想って居る。

*1:ただし是が許して貰えるのは、私とAちゃんに限ってのみである。

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