双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

そして、人生は、続く

|猫随想|


先月末のリリース以降も、剣菱は律儀に日参して居る。
手術の痕もすっかり癒えたと見え、木登りする身ごなしも俊敏、食欲も旺盛で元気な様子であるのだけれど、毎日こうして彼女を見る度、相変わらず割り切れぬ想いがちくりと痛んだ。私の行いは正しかったのか、正しくなかったのか。是で良かったのか、良くなかったのか。はっきりとした答えを得ぬまま、漠然としたまま、相変わらず苦さだけが残る日々が続いて居た。この何とも煮え切らない、胸苦しい、手詰まりな感じ。この苦さ。確かに知って居る気がするなぁ、と考えて、ふとケン・ローチの映画の、あの感じだな、と気付いた。行き詰まりながらぐるぐる堂々巡りした挙句、ようやっと辿り着いた先は、何と云うのか、まるっきり絶望的と云うのでも無いけれど、かと云って、決してハッピーエンドでもない。白とか黒とかですっぱり割り切れぬ、じくじくとした鈍い痛みみたいなものと一緒に、ケン・ローチ的な日々の中に居たのだな、と。
数日前。餌を食べ終えた筈の剣菱が、野原の真ん中でじいと身を潜めて居るのを見付けた。と、次の瞬間。剣菱は素早い動きで何かを仕留めると、それを口にくわえて、一旦こちらを振り返った。あ、野ネズミだ。埃っぽい小さな背中は、野原の少し先に在る自動車修理工場の廃車置場の方へと消えた。少しした頃、何と無く気になって廃車置場をこっそり覗いてみると、獲物を食べた後だったのだろか。軽トラの隙間に、目を細くして毛繕いをする剣菱が居た。そうか、やっぱりここが隠れ処だったのだな。良かった。ちゃんと雨風の凌げるねぐらが在ったのだ。同時についさっき、野原で見掛けた剣菱のまなざしを思い出した。それは「大丈夫。アタシはあんたが思うほど、ヤワじゃないから」ときっぱり力強く語って居た。
その日以来、私は彼女との関わり方において、何と無くふうっと縛りが解けたよな気がしたのだった。己の甲斐性の無さだとか、罪悪感の混じった責任だとか。そんなもので窮屈だったのが解けて、また少し楽になったよな気がしたのだった。お前はどうなのだろか。これから先のことは分からぬし、恐らく悩みは無くならないのだろ。それでも、人生は、続く。お前のも。私のも。

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