双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

山の肉

|縷々|


山で鉄砲撃ちをする人から、野生の猪の肉を貰った。
袋の中の塊は、どっしりと立派で、真っ赤で、
一昨日仕留めて捌いたばかりの、きれいな肉だった。
玉葱と茸と大蒜と一緒に、葡萄酒で煮込んだ。
拵えて居る途中、不意にお腹の空く感覚が蘇ってきた。
ここ暫くはずっと、そんな感覚を忘れて居たから、
自分でもちょっと驚いた。
生きて居るからお腹が空く。
生きるために食べる、と云う当たり前のこと。


夜、店を仕舞ってから、
出来上がった煮込みを、皿によそって食べた。
おかわりまでして、もりもりと食べた。
心の底から、こんなに食べ物が美味しい!
と感じたのは、いったい何週間ぶりだろ。
体の隅々にまでエネルギーがしみわたって、
じわじわと生気が満ちてくる。
そんな味、そんな感覚だった。
山の猪の肉を食べて、元気が出た。
野生の命から貰ったもの。

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