双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

剣菱通信

|猫随想|


十一月某日
洗濯物を干して居たら、お隣の奥さんが箒で剣菱を塀の上から追っ払って居たので、挨拶がてら「この野良、どこから来るんでしょうねぇ」などと、それとなく探りを入れてみる。お隣ではここ二・三ヶ月程に姿を見掛けるよになり、しかし奥さんは、猫は元より生き物全般が好きでは無いので、庭先をうろつかれて困って居ると云う。そこで、何とか人馴れさせ、捕まえて不妊手術を施し、できれば里親を探してやろうかと考えて居ること。そちらに一切迷惑の掛からぬよに配慮するので、是非給餌をお許し頂きたいことなどを伝えると、奥さんは恐縮しながら「あら、そうなの?私、犬とか猫とか生き物苦手だから、気を悪くしないでね。お金は出せないけど、その代わりに手も口も出さないから。どうぞどうぞ」とのことであった。お隣の承諾を得たところで、晴れて堂々世話をしてやれる。


十一月某日
剣菱がお隣側からこちら側へ居付いてくれるよにするため、段ボール寝床を軒下へ移動。給餌も軒下で行うことにする。相変わらず、お隣の庭を通り道にはして居るものの、数日の間に、ほぼこちらへ居付かせることに成功。午後になると、いつの間にかやって来て居て、好きに過ごすよになった。いつだかの給餌の後、段ボール寝床の中で眠って居る姿を確認。しかし、夜になると居なくなるので、やはり何処かにねぐらが在るのであろう。恐らくは、付近の農作業小屋のどれかじゃないかしら、と想う。


十一月某日
件の段ボール寝床は、どうやら気に入って貰えたらしく、気付くと中に入って寛いで居る模様。日々声を掛け、おやつと夕飯を与える内、箸や匙から餌を口にするまでとなり、だいぶ距離を縮めた風ではあるのだけれども、未だ未だ接触には到らない。どうしたものかしら。と、ひょんなことで、以前から来店して下さって居るお客様が、実に赤ひげ先生()の奥様と云うことが分かったもので、先日の来店時に相談してみた。捕獲機などの特別な器具が無くても大丈夫か?捕まえてからの段取りはどうすれば良いか?
「先ずは焦らないで、ちょっとずつ馴れさせて信頼させて。洗濯ネットにさえ入れられれば、後はウチでどうにでもできますから。野良ちゃんだから予定が立たないだろうと思うので、捕まえられたら連絡して。翌日の手術の件数に余裕が在れば、すぐに対応できますヨ」と頼もしいお答えを頂く。一晩置いておくのが難しいのであれば、前日から預かって貰えるとのこと。又、奥様から予め赤ひげ先生に話を通しておいて下さるとのことで大変に有難い。とは云え、捕獲がいつになるか見当が付かぬため、こちらの連絡先を書いてお渡ししておく。ちなみに奥様自身も猫好きで、付近の人懐こい野良猫らを保護して居る他、動物病院と云うことで、入口の前に子猫が捨てられることも度々なのだとか。まったく、けしからん輩が居るものである。

<