双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

また会いましょう

|雑記|


月に二度か三度、恐らくは仕事帰りに寄ってくれる
きれいなお嬢さんが居る。本が好きで、
珈琲とカレーの組み合わせが好きなお嬢さん。
初めてここへ来てから、もう三年程が経つだろか。
そんな彼女が、日中の珍しい時間帯に来店した。
いつもの卓について、いつものよに本を読み、
珈琲と甘いものとでゆったりと過ごした後、
帰りがけの会計の際のことだった。
「実は私、この春から転勤で他所へ移ることになって」
お嬢さんは云い、ふうと大きく一度、深呼吸した。


「もう、ここに来られなくなっちゃうんだと思ったら、すごく残念で寂しくて...。上手く言葉では云えないんですけど、ここへ来るとほっと安心できて、本当に大好きなお店で。こんな場所、きっと他には無いんだなぁ、って...。いつも素敵な時間を頂いて、感謝して居ます。今までどうも有難う御座いました」


こちらこそ、長い間どうも有難うございました。とても残念だし、寂しくなってしまうけれど、新しい土地でもがんばって。こちらの方へ来たときには、どうぞ寄って下さいね。


「はい、そのときは絶対寄らせて頂きます!」
最後にぺこりと頭を下げ、はきはきと気持ちの良い
挨拶と笑顔を残して、お嬢さんは店を後にした。


春は出会いと別れの交錯する季節。
人はやって来たり去ったりを繰り返すけれど、
この場所はきっと何処へも行かないし、
これからも、ずっと変わらずに在るのだろ。
あなたに見付けて貰って、そんな風に想って貰って、
私たちも嬉しかった。有難う。
さようなら。また会いましょう。
この店はここに在って、いつでも待って居ます。
お嬢さんの新たな門出に、幸多からんことを。

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