双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

散髪とカレーと珈琲と

|散策|

北からの容赦無い寒風吹く中、分厚いコール天の
コートの襟をぎゅうと合わせて、散髪へ出向く。
前髪をいつもよか少しだけ短めに整えて貰い、
清々となって気分良く店を出ると、首筋が寒い。
その足で駅から電車に乗り込み、隣町まで。
駅前のスーパーは肌着売り場で、寝巻きを一つ
買い求める。年配の婦人向けのキルティング地。
年寄りじみた品なのだけれど、中綿が入って居り、
冬場に一度是を着たならば、二度と手放せない。
折りしもセール中であったため、千円引き。国産。
外へ出ると風は更に冷たく、昼餉に蕎麦屋まで歩く筈が、
途中の印度カレー屋の香ばしい匂いにつられ、
急遽予定を変更。店内に足を踏み入れると、
実に、其処はYOUだらけなのであった。
恐らくは、近くの英会話学校の講師たちなのだろ。
辛さの程好い、まろやかなチキンカレーを食す。
ターメリックで炊いたライスと共に供される
雪男の足跡程もあるナンも、ふんわり軽い。
店の人たちはてっきりインドの人かと思ったが、
品書きにはネパール料理も多数在ったから、
もしかすると、ネパールの人なのかも知れない。
皆、元気で愛想が良い。
昼餉を美味しく頂き店を出て、腹ごなしにてくてく。
寂れた商店街は人も疎らに、スピーカから流れる音楽ばかりが
虚しくもやかましい。毛糸屋の外に置かれた特価ワゴンへ、
パピーのクイーンアニーの山を見付ける。
色は明るい青。ロイヤルブルーと云うのかしら。
この糸が特価となることは滅多に無いので、
きっとこの色だけ大量に残ってしまったのだろな。
私は大好きな色だけれど。
一玉二百五十円。マフラーを編むのに五つ購入。
こんなきれいな色のマフラー、冬に映えそうだ。
ほくほく気分で更に通りをてくてく。角を曲がって
暫くご無沙汰して居た、馴染みの喫茶店へ。
店内は小父さん小母さんでほぼ満席。
どうしよっかなぁ、とドアの近くで躊躇して居たら、
小父さんの一人が「お姉さん。ここ、空いてるヨ!」
片付けの間に合わぬ、前のお客さんの器を、
小父さんたちがマスターに代わって下げてくれる。
「有難う御座います。何だかすみません」
小父さんたちに促されるまま、奥の席へ。
程無くマスターがやってきて、卓を拭きながら
「お久しぶりでしたね。お元気でしたか?」
「はい。ご無沙汰して居ります」
珈琲をお願いして、小父さんたちの談義に耳を傾けながら、
読みかけの本を読み、ほっとして人心地つく。
嗚呼、不思議だな。がやがやとして居る筈だのに、
此処だと何故かちいとも煩く感じないんだ。本当に。
帰りがけ、マスターが「時々は寄って下さいね」
寒いから気をつけて。有難う御座います。
珈琲が特に美味しい訳じゃない。
場末の変哲無い、只の喫茶店なのだけれど、
やっぱりこの人の人柄なのだなぁ、と想う。
コートの襟をぎゅうと、元来た道を戻りつつ、
途中、懐かしい和雑貨の並ぶ趣味の店へ寄る。
千代紙だの、和紙を貼った文箱だの、
縮緬のがま口だの、つげの櫛だの。色々。
「ごちゃごちゃで御免なさいねぇ。片付けなきゃね」
Aちゃんの誕生日の贈り物に、店のお婆さんと
色々お喋りしながら、小物を幾つか見繕って。
縮緬を貼った小さな手鏡に、梟の根付。
それと黒地に渋い小紋柄の小物入れ。
さてと。そろそろ帰りますか。
店を出てまっすぐ歩いて駅に着いたら、
運良く、丁度の電車が在った。
少し日が伸びた。冬の海の色が群青色。

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