双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

風穴

|徒然| |忍び|


「あんなに小さいものなのに、その破壊力の大きさったら凄いな。」
Aちゃんが、気の抜けたよな口ぶりで云った。
「だってさ、あのチビと接してしまった後では、ピピンを見る目が違ってしまうんだよね。いつもみたいに抱っこしても、やけにずしっと重い気がしたり、いつまでも子猫っぷりが抜けないよなぁ、なんて思って居たのに、何だか急に大人の猫に見えてきちゃって。今までそんなこと感じたりしなかったし、ピピンはいつもと何も変わらない筈なのに、そんな風に感じてしまう自分に、正直戸惑ってしまったと云うか。いやぁ、まったく参ったよ・・・。」


その気持ちは、私にもよく分かる。若旦那はいつもの若旦那で、何一つ今までと違って居ない。けれど、新たにやって来た小さなか弱きものの存在が、計り知れない大きな力でもって関わる者たちに影響を及ぼして居る。何と云えば良いものか、我々の鈍さをズドンと直撃したのだ。盲いた目が不意に開かれたよなものかも知れない。
図体はでかくなっても、未だ未だ子猫風情とばかり想って居た若旦那が、妙に大人びて見えたとしても、それは紛うこと無き若旦那の、じきに二歳を迎える猫としての実の姿なのであって、又、急にずっしりと感じたとしても、それが五キロと云う数字の表す実の重みなのである。すっかり当たり前となって居た感覚に、小さな子猫の出現が大きな風穴を開けた。Aちゃんはそれを破壊力と呼んだが、まさにそんな勢いで、すっかり分厚くなって鈍って居た感覚を取り戻させてくれたのだ、と想う。只我々は、急に明るくなった目に戸惑って、少々おろおろとして居る。何とも滑稽なことだ。


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こんなコッペパン程の大きさしかないチビが、あんな所にひとりぼっちで待って居たんだなぁ。

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