双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

翌日

|徒然| |忍び|


昨夜の降って沸いた救出劇(→)から一夜が明け、若旦那に朝餉を出してから、恐る恐る子猫の様子を見に行くと、業務用アイスクリームの空き容器で拵えた厠へ、一塊の排尿を確認。小皿の餌もしっかりと無くなって居た。あったかな寝床を得、腹も満たされて安堵したのか。相変わらず声は枯れて居るものの、昨晩と比べると少し落ち着いた風である。出勤して来たAちゃんに経緯を話すと「うーん、確かに是はちょっと劇的だよねぇ」と、亡き爺さんに似た子猫の額ををしみじみと撫でた。母は元来、猫があまり好きではないので、渋い顔をして「一体どうするのよ。駐車場の何処かに戻してきなさいよ」などと、学校帰りにうっかり猫を拾ってきてしまった小学生の母親みたいなことを云う。お陰でちいとばかり険悪な塩梅となり(笑)、しかし子猫の命を助けたからには、飼うにしろ里親を探すにしろ、勿論一通りの世話を請け負う心づもりである。
給餌が終わったところで、改めて子猫の住環境を整え直してやる。段ボールを幾つか分解してケージ様の囲いを拵えた中にバスタオルを敷き、先述の厠。毛布を敷いた籠と枕など、若旦那が幼い頃に使って居た品々から幾つか拝借して、子猫にあてがった。午後になって状態を知るために、若旦那かかり付けのお医者へ連れてゆく。乳歯が生えたばかりの子猫は雄の子猫で、やはり生後一ヶ月になるかならぬか。健康状態は概ね宜しい風で、寄生虫やノミ、ダニなども見当たらない、とのことであった。又、先生に保護の経緯を話したところ、日中車の往来の激しい場所柄であること。側溝が深さも長さも在るものであったこと。雨の多い梅雨時期であることや、夜も未だ冷え込むことなどを考えると、保護が一日遅れても危なかったかも知れないと仰り、会計の際に、里親を探す予定であることを告げたら、初診料と消費税分を値引いてくれた上、子猫用の餌を幾つか持たせてくれた。



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しかしまぁ、考えれば考える程、衝撃的な出来事ではある。そもそも私が昨晩煙草を買いに出掛けたのは、単なる気紛れ、偶然に過ぎず、ここ暫くの間はずっと吸わずに居て、それが昨晩、何やら急に吸いたいよな心持ちとなって、ふらふらと小銭をポッケへ入れて出掛けたら「僕はここだよ!見付けてよ!」と助けを求められ、懐中電灯で照らしてみれば、何とまあ。其処には、鼻筋の所にしゅっと一筋白い線の入った、爺さんの子猫時代にそっくりなのが居て、しかも鼻頭へ墨汁がちょこんと撥ねたみたいなところまで似て。思わずざざざと鳥肌が立って「ええっ!」と声に出してしまった。しかも今の今まで一度たりと、段ボールに入った子猫を見掛けたことも、親からはぐれて助けを必要とするよな子猫に遭遇したことも、全く無かったのである。嗚呼、もしかしたら、私は呼ばれるべくして呼ばれたのかしら・・・。
里親探しには難儀しなくて済む。お店の常連さんに、何処かのお宅で子猫が生まれたと云う話が入ったら、そのときは是非知らせてね。と云う人が幾人か在るからなのだけれど、里子に出すつもりだのに、何かが心に引っ掛かって居る。
何故、私は昨晩急に煙草を買いに出掛けたくなったのだろ。助けを求めた子猫が茶トラでも雉でも無く、白黒の、しかも雄猫だったのは何故なのだろ。

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