双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

どこにもいない

|本| |猫随想|


フランシス子へ

フランシス子へ

あの合わせ鏡のような同体感をいったいどう言ったらいいんでしょう。
自分の「うつし」がそこにいるっていうあの感じというのは、ちょっとほかの動物ではたとえようがない気がします。
僕は「言葉」というものを考え尽くそうとしてきたけれど、猫っていうのは、こっちがまだ「言葉」にしていない感情まで正確に推測して、そっくりそのまま返してくる。
どうしてそんなことができるんだろう。
これはちょっとたまらんなあって。

僕は、自分のことを「遅い」とか「鈍いんじゃないのかな」って思ってきたわけですが、猫さんはこっちが鈍くても鈍くなくても、好きな人間がかまってくれると、そのかまいかたとすぐ一致することができる。
いつも自分は「遅い」と感じてきた僕にしたら、そんなことは人間との間でもなかなかあるもんじゃない。
しかもその一致のしかたはまことにみごとなもんで、これ以上忠実な知り合いはいないって感じがする。
あるいは深い友人というのかな。
深いんですよ、なんかね。
けっして嘘をつかないし、裏切らない。

あれよりもっとりこうな猫はいくらでもいるけれど、あいつに似た猫はどこにもいない。


心の通い合った猫と一つ屋根の下で、長い年月を共に暮らすと云うことは、
つまり、こう云うことに気付かされると云うことなんだ。と想う。

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