双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

横暴と情緒

|雑記|

こないだようやっと咲いたばかりの桜が、
今日にはもう、すっかり葉桜となって居て、
是にはさすが、気の毒なことと想う。
しかし、気の毒なのは桜だけに非ず。
歯医者へ向かう道行きは、晴天ながらも
昨日の春の嵐の名残りで、風が凄まじく、
南風だと思えば、北からの風に変わり、
そうと思えば今度は西、とまるで節操が無い。
嗚呼、歯医者へ行くだけでも気が重いのに。
春と云うのは、さながら女王気質で、
誰からも愛されて居るのだ、と云う自負から、
こうした横暴な我儘が許されるものと
容易に考えて居るふしが在るのらしい。
まったく。是だから嫌なのだ。
さりとて春の醸す季節の情緒については、
大変に好ましく感じて居るのであって、
山肌に点々と浮かんだ淡色の島々や、
田畑の間へ広がる菜花の姿、葉桜の色合いなど。
これらを眺める度、やわらかな心持ちとなる。
春の横暴と情緒との狭間で強風に煽られながら、
羽織った薄手のコートの合わせを、ぎゅうと押さえ、
方々へ乱れた髪を苦く諦めて、坂道を下った。

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