双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

『ホビット 思いがけない冒険』

|映画|



The Hobbit: An Unexpected Journey - Official Trailer 2 [HD]

どうしても年内に観ておきたくて『ホビット 思いがけない冒険』を観に行って来た訳だが、是が実に愉快であった。LotRの持つ複雑さや重厚さ、底暗い悲壮感と比較すると、こちらは原作が児童向けだけあって、内容も分かりやすく、明るく愉しく胸踊る冒険譚。LotRの始まりへと重なってゆくプロローグも心憎い仕掛けだし、冒頭に登場するエレボールの荘厳な美しさなんて、只もう見とれるばかりで、思わず溜息がもれたほど。これぞWETAの職人技であるよ。それに、屋敷を飛び出して冒険へと出掛けてゆくビルボを追いながら、ホビット村を俯瞰で映し出す演出も素敵で、この村の魅力を存分に堪能できる。


当初オーケンシールド先生*1は大分格好良くなり過ぎなのでは?と想ったのだけれども、よくよく考えてみると、只でさえ女っ気が無いのに、其処へ来てドワーフばかりが十三人。その上、不細工な怪物まで大勢くっ付いて来るのだから、せめてドワーフの御頭を男前にせねば、さぞやむさくるしい画面となったであろうことは容易に想像がつく。成る程、確かに納得である。又、どんな風なのか愉しみだった歳若のフィーリとキーリ兄弟は、典型的ドワーフ顔とは異なった顔つきで、恐らくは今作におけるメリーとピピン的な存在となるのかしら、だとか、個人的に気になるボフールだとか、地味に良い味のオーリ(彼の着て居る凝ったアラン編み風チョッキったら!)だとか、ドワーフ其々の個性も様々で愉快愉快。それに連中の歌が又良いんだな。あの歌に曲がついて、こうして実際に聴くことができるのは、本当に素晴らしいことだ。マーティンのビルボはまさしく適役で、よくぞやってくれたものと感心しきり。ドワーフが押しかけた翌朝、誰も居ないのを恐る恐る確認する様だとか、次々と降りかかる災難におろおろする様が、いちいちかあいらしくて困った(笑)。
しかしそれよりも何よりも、ラダガスト*2である。彼の登場から、もうすっかり全部持って行かれて、胸がキュンとなってしまったのである。瀕死のハリネズミを救命する場面など、うっかり泣きそうになったじゃないか(笑)。このラダガスト、原作には出て来ないのだけれども、きっと彼に何かを託したかったのだね。実に嬉しいPJの粋な計らいである。
頁数にすると五百に届かぬ程度の原作を、予定の二部作からLotR同様の三部作へと変更したのは、細部まで出来るだけ取りこぼし無く描きたいと云うのと、其処へ指輪の内容からの引っ張りも絡めて、更なる膨らみと深みを持たせたいと云うところだろか。第一部となる今作でも、オークの追っ手や先述のラダガストの登場、賢者が集っての裂け谷での密談など。先の指輪の話へ繋がってゆくであろう、映画ならではのエピソードや伏線が随所に盛り込まれ、それらが見事素晴らしい効果を生んで居る。兎にも角にも、PJに任せておけば万事首尾良し。故に我々は只安心して待ち、出来上がった作品を観るばかりなのである。
余談であるが、サルマンを演じるC・リー大先生の、御歳九十とは信じ難い矍鑠ぶりには、ただただ敬服。

*1:国を追われて流浪の無一文になった末、元来高貴な身分であるにも拘わらず、食ってゆくために鍛冶屋で働く姿が泣ける・・・。

*2:森の動物たちを愛する余り、帽子の下の自らの頭を鳥の巣として提供して居り、その所為か、もしゃもしゃの髪は鳥のフンだらけ。大変にお茶目で素敵な人なのだが、近寄ったら相当クサそうでもある(笑)。

<