双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

褞袍と猫

|モノ|


実家に未だしつけの掛かった丹前が在る、
と母が云うので、予てより考えて居た
綿入れ半纏の新調を見送り、一先ず
そちらを有難く使わせて貰うこととした。
所謂ところの"褞袍(どてら)"である。
どうやら生前の祖母が随分と昔、
息子である父のために仕立てたものらしく、
結局一度も使われぬままに、
押入れの茶箱へ仕舞われて在ったのを、
先頃掃除の際、母が見付けたとのこと。
男物故、変哲の無い地味な茶の縞柄で、
半纏とは異なり、帯で締める作りだもので、
決して勝手は宜しくないのであるが、
防寒が目的だから、別段構いやしない。
只、そのままだと、やはり丈が長いため
膝の少し下の辺りまで裾を折り上げ、
是を簡単に纏ることで、一先ずは良しとした。
綿がしっかり入って居ることに加え、
前が合せで重なるのと、長丈とのお陰で
夜を過ごすのが、随分とあたたかになった。
又就寝時には、それまで羽織って居たのを
布団の上へ掛けるなど、なかなかに重宝である。
しかし、どうした訳か。
何やら若旦那が大層、是を気に入った風で、
ふと気付くと、一丁前の香箱作って、
布団に掛けられた、爺むさい茶色い褞袍の上へ、
ちゃっかり乗っかって居るのだった。
或るときは、自ら懐や袖の中へ潜るなど、
然も当然とばかりの顔して、ぬくぬくとして居る。
何がそれ程、あいつの気に入ったものやら。
しかしまぁ、人が着てあったかなものは、
猫とて同様なのだろな、と想う。

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