双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

寒空月曜

|散策|

冷たい北風と雨雲のうっすらと広がる中、
昼下がりの電車に乗って久しぶりの隣町。
一番後ろの車両に座ると、見習い中なのだろか。
男性車掌の隣に歳若い娘さん車掌の姿が。
拡張整備の終わった駅前は、がらんとして、
人々は足早に、皆上着の前を押さえて居る。
広場ではクリスマスの飾り付けが始まって居た。
大通りから路地に入って、小さなお香の店へ寄る。
以前春先に寄った折には、季節の香を勧められて、
梅の香の線香を一つ、買い求めたのだけれど、
今時期は紅葉。『彩紅葉』と云う名の線香を包んで頂いた。
清々しく掃き清められた入り口を出ると、風が強い。
そのまままっすぐ通りを進むと、程無く蕎麦屋
昼餉、あたたかい蕎麦にしようかな。どうしようかな。
一旦通り過ぎるも、やはり引き返して暖簾をくぐる。
たぬき蕎麦。天かすの隣に蒲鉾とほうれん草、
薬味の白い葱は丁寧に刻まれて、小皿の上。
おつゆはきりりと辛めで私好み。おいしい。
あんまりお腹が減って居たので、あっと云う間。
すっかり良い気分となって店を出て、腹ごなしに
馴染みの喫茶店まで、ぶらぶらと暫しの路地散策。
相変わらずの街並みとは云え、一寸見ぬ間に
高層の分譲マンションが幾つも建ってしまって、
この辺りも随分と様変わりしてしまったなぁ。
立ち止まって真新しい建物を見上げて居たら、
不意に額へぽつり、と冷たいものが落ちてきて、
マフラーを衿元にぎゅっとやり、喫茶店へ急ぐ。
「お久しぶりでしたね。今日は何にしましょうか」
珈琲と・・・それから、ホットサンドお願いします。
ついさっき蕎麦をすすったばかりだのに、
今日は何だか無性に腹ペコなのだ。フフフ。
いつにも増して小父さん小母さんで賑わう店内も、
ちょっと奥まった一角に、ひとりきりで座って居ると、
不思議に雑談が心地良い。注文が来るまでの間、
本棚に在った『家庭画報』なぞぺらぺら。
凡そ客層とは不釣合いと思われるのだが、
何故だかこの店には『家庭画報』が置かれて居る。
冬の巴里滞在は、母娘で過ごす高級ホテルの愉しみ。
いつものことながら、全く別世界のお話であるなぁ。
この時世でも、こんな人たちが現実に居るのだなぁ。
やがて運ばれてきた珈琲とホットサンドを頂き、
それから半時程ゆったりと寛いで、お会計。
「外は寒いですから、気をつけてお帰り下さい」
「ご馳走様でした。ゆっくりさせて頂きました」
分厚い雨雲に覆われた鉛色の濃い空の下、
コートのポッケに両手を突っ込んで、猫背気味に歩く。
途中の花屋で白い菊の束をひとつ。
それと、赤い実の付いた枝物をひとつ。
もうすぐ迎える爺様の命日用に買い求めた。
其処からすぐの手芸屋の特売ワゴンの中に、
輸入物の高級モヘア毛糸がどっさり積まれたのを見付け、
次に編む予定のカーディガン用に、幾つか。
思わぬ収穫に、ほくほくとなって道急ぐ。
電車に乗って駅を出たら、すっかり暗くなって居た。
歩いて帰ろうと想ったけれど、遅くなっちゃったな。
若旦那、ご飯待って居るだろな。
丁度良い具合にバスが在ったので、
学生さんたちと一緒に乗り込んだ。

<