双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

ものぐさの庭仕事

|庭仕事|


長袖だ半袖だ、寒いの暑いのと気忙しく振り回されるうちに、季節はすっかり新緑眩しい初夏の佇まいへと移り、途端、草木の健やかに伸びゆく様には、いつものことながら心躍る。一方、昨年より殆ど手付かずで居た拙宅の庭はと云えば、グラウンドカバー代わりなどと云えば聞こえは良いが、その実、単なるものぐさから植えてあるノコギリソウとワイヤープランツが、必要以上に勢い茂り過ぎたがために、庭の八割以上を覆い尽くして占領。辛うじてテッセンと蔓バラ、カノコソウは是を逃れた風であるが、その他の慎ましやかな草花らの、一見すると何処へ植わって居るのかすら、もはや認知の困難となった有様は、まさしく主のものぐさ、ずぼらをそのまま絵に描いたが如し。いよいよ以って、さすがに腕をまくる気となったのであった。
仕事の合間を使って、先ずは二日がかりで是を地道に刈り取り、下に埋もれて居た気の毒な植物らを、一旦掘り出して救助。久々にさっぱりとしたところへ、裏手からミミズたっぷりの肥沃な土を運んで来て、花壇の土へ鋤き込んだ後、先程の植物らを塩梅良く植え戻す。この肥沃な土と云うのは、庭の裏手へ積んでおいた枯れ草から、土中のミミズたちが懸命に拵えてくれたもので、黒々とやわらかな、大変に良く肥えた土である。ノコギリソウらが刈り取られて、ようやく十分なスペエスが出来たので、数日前に近くの園芸店にて求めた、幾つかのポット苗。オレガノ、ゴールデンタイム、レモンバーベナ、アルケミラ・モリスらも、各々バランスを見ながら植え込んだ。ふむ。ジギタリスは、パープルセージの一群の隣が良かろう。是も植え込んで、終いにたっぷりと水を遣り、蔓バラの込み合った部分と、不恰好に伸び過ぎた部分に少しだけ手を入れ、ついでにハニーサックルの暴れた枝を誘引するなどして、一先ず花壇の作業は終了。
店へ戻ってほうじ茶で一息入れた後、今度は鉢植えの作業に移る。剪定鋏片手に方々の鉢植えへ手を入れ、新たなポット苗のコリウスやヘンリー蔦等々を鉢に移植。塩梅良くなるよに、幾度も離れた場所から腕組みして眺めては、その都度、配置を変えながら苦心して整える。粗方の作業を終えた頃には、もう疾うに夕刻を過ぎて居たのだけれど、随分と日が延びたおかげでたっぷりと時間を割くことができ、心地良い疲れと充足感を得たのであった。
さてと。後に残るは大仕事が一つ。裏手へと延びる小道をびっしりと埋め尽した、キンポウゲの刈り込みである。


|本|


長年の愛読書、二冊。

「イチゴなどの新芽をカタツムリに食べられてしまうのを防ぐためには、殺虫剤を使うより、できるだけ彼らを捕まえるようにしている。捕まえたカタツムリはかごに入れて、生け垣の下から戸外へ逃がしてあげる。これは生き物の生命と庭との調和を守る一つの方法。私は家を背負って歩くこの小さな生き物にいつでも特別な親しみを覚えるから。」
Derek Jarman's Garden

Derek Jarman's Garden

  • 作者:Jarman, Derek
  • 発売日: 1995/06/01
  • メディア: ハードカバー
「ダンジェネスは夏の光に輝いているときが最高に美しい。黒い家が黄金色に変わり、海岸近くまで長い影を伸ばす。太陽が原子力発電所の向こうに沈んだあとも、青白い小石はじばらくの間、光を反射していて、ピンクから白に色を変えていく。ここのたそがれは他と違う。完璧なまでの静寂の中で、ゆっくりと暮れていく。まるで疲れた時がまどろんでいるかのようである。  おお、パラダイス。私の庭よ。お前は光をまといながら、夜に溶け込んでいく。」


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イリスの庭とデレクの庭。この二つの庭は、まるで異なった独自の佇まいを持つが、共に、主の眼差し、姿勢、人となりと云ったものが其々の庭に宿って居て、頁の中から寡黙に語りかけてくる。揺らぐことの無い美意識が存在し、庭と主の確かな対話が存在する。幾度見ても飽きること無く、心惹かれて止まぬ庭である。

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