双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

白黒写真

|写眞館| |雑記|



或る日、何とは無しに若旦那の写真を見て居たら、何故だか色付きばかりで、白黒の写真の殆ど無いことに気付いた。爺様が白黒だったから若旦那は色付き、と云う程度の。別段意図もせぬままに写して居たのだろうが、妙なものだなと想う。どれ、と後日。昼寝中の若旦那に一声掛けて、気紛れの試しに白黒で撮ってみたのだけれど、是には実にはっとさせられた。何と説明すれば良いものか。つまり、その場、そのとき、其処に在った筈の心情や手触り、温度のよなもの。距離と眼差し。もしかすると私自身にしか分からないかも知れない、そうした目に見えぬ様々が(色付きと比べてみて改めて)白黒には確かに写って居る、と気付いたのだった。全くの無自覚だったとは云え、本当にどきりとした。



勿論、私は写真は見る一方。自他共に知る通り、撮るに関しては全くと云って良い程、何らの技量も覚えも持たぬ人間だから、とてもああだこうだ云えたものでは無いけれど、もし仮に色付き・白黒の其々と相性なんてものが在るのだとするなら、私は恐らく、白黒と馬が合う質なのかも知れぬな、などと想う。


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電脳箱の中の写真を整理しながら、未整理で居た爺様の写真庫に暫しの時間を過ごす。ああ、そうだ。昨年八月の末の頃、初めてのデジタル写真機を買い求めた私は、至極自然な流れで、身近な被写体として爺様を撮り始めたのだったな。しかし奇しくも、丁度頃合を同じく爺様の病が発覚し、それが結果的には、あいつの最晩年の幾月かを記録することとなった訳だけれど、生前最後に撮られた写真の日付を確認してみると、11月15日。爺様の旅立つ八日前で終わって居た。あの後、いよいよ歩行が困難になり、オムツを付けるよになり、急速に彼岸へと近付いてゆく爺様に、私は写真機を向けることが躊躇われたのではなかったろか。しかし今となってみれば、あいつの生をしっかりと。刻み付けるよに記録してやれば良かった、と想って居る。幾ら刻み付けたって、ちいとも足りやしなかっただろうけれど。


改めて『爺様寫眞館』に納めよう。

2011/11/14



2011/11/15



2011/11/23 RIP


|本|


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チロ愛死

チロ愛死

愛する者の、彼岸へ旅立つ姿を見送るってのは。Aとチロの二十年。生の記録。

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