双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

匂い

|日々|


窓へ仕立てた蔓はこの夏、あっと云う間に伸び育ち、
小さな掌を広げたよな緑の葉を茂らせた。
開いた窓際まで昼食を運んで、コップの水を飲む。
匙を置いて、葉の隙間に程好く遮られた表を眺めやれば、
すうと気持ちの良い風が入って来る。と、
照りつける陽射しに、アスファルトのちりちりと
焼ける音が聞こえてきそうなところへ、不釣合いな遠雷。
真っ青な夏空から、先ずは、ぽつり。
程無く、ざあと大粒の雨が降ってきた。
あ。むうと立ち上ってくるこの匂いは、確かに、
熱に焼かれた路面と土埃の匂いなのだけれど、
私はそれを雨の匂いと想って居る。
皿を片付けて珈琲を淹れた後、少し湿った指先に、
薄い巻紙の纏わりつくのを適当にいなしながら、
ぼんやり。煙草を巻く。擦り終えたばかりのマッチの匂いが
雨の匂いへ重なる至福から、日の気紛れを誘ったか。
もう読み終えてしまいそな開いた頁の上へ、
そっと鼻先を近づけて、ゆっくり深く吸い込むと、
やわらかに混じり合う、甘い匂いがした。

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