双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

マドラスチェック

|縷々|


未だちいと心細く想いながらも、抽斗の中身を
薄物と入れ替えて、相変わらず格子と縞ばかり
並んだ様に独り、納得して風呂敷を畳む。
そうだ。あの方が亡くなられて一年が経つ。
もし生きていらしたなら。3・11以降の世界を
如何に綴られたろう、と考えずには居られない。
アイロンをあてない洗いざらしのシャツを手に、
あの日、お身内の方の届けて下さった言葉の
一節を、ふと額の内側へ想い起こした。
マドラスチェック
毎年新緑の清々しい頃となると、マドラスチェック
シャツへ袖を通す。丁度今時分の節から夏にかけて、
あの柄の持つおおらかで気さくな佇まいと風合いは、
身も心も軽やかにしてくれる。秋や冬に馴染み良い、
タータンの堅牢で生真面目なそれとは、また違った
良さや頼り甲斐が在り、ずっと変わらず身近な柄だ。
私が格子柄の好きなのは、ご存知だったかも知れないが、
マドラスへの個人的な親しみについて、あの方が知ることは
恐らく無かった筈だろうに。つくづく不思議なものと想う。



マドラスチェックの古布で縫いあげたような
日常に埋没しない精神の持ち主・魔法使いの手仕事



私は、頂いた言葉に恥じない日々を過ごしてきたろうか。
俯瞰で見、一旦冷ました言葉を綴ってきたろうか。
爪を切ったばかりの両の指先を揃え、じっと見下ろす。

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