双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

山模様

|日々|


南からの風は滅法荒々しく、やがては雨をも伴って
さながらの嵐か。しかしそれも幾時間の後に去り、
間も無くすれば、朗々とした晴天が広がって居た。


眺めの先へ、嵐に洗われた山の稜線はくっきりと。
山肌にはふんわりと、水を含む筆先から滲んだ、
淡い水彩画のよな春の彩りが添えられ、何処か
絵に描いた、小さな浮島たちを想わせるものである。
遅い昼食の窓辺から、その景色を眺めるうちに、
次第胸の奥底がむず痒くなって、ただ無性に山へ
出掛けたいと想う。しかしながら、未だ余震の続く中だ。
沢道にも幾箇所か崩れや落石が見当たると云うし、
山道とて同様。それを知りつつ出掛けるのは、さすがに
利口とは云えまい。空になった皿を隅に寄せれば、
日課宜しく、短い小さな揺れが冷やかしに訪れた。


こんな風に素敵な山模様を前にして、手も足も出ぬ。
舌打ちし、苦々しい心持ちして、煙草を巻く。


|本|


若き日の山 (yama‐kei classics)

若き日の山 (yama‐kei classics)

珈琲を淹れ直す。行けずとも、心馳せる。

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