|日々|
南からの風は滅法荒々しく、やがては雨をも伴って
さながらの嵐か。しかしそれも幾時間の後に去り、
間も無くすれば、朗々とした晴天が広がって居た。
眺めの先へ、嵐に洗われた山の稜線はくっきりと。
山肌にはふんわりと、水を含む筆先から滲んだ、
淡い水彩画のよな春の彩りが添えられ、何処か
絵に描いた、小さな浮島たちを想わせるものである。
遅い昼食の窓辺から、その景色を眺めるうちに、
次第胸の奥底がむず痒くなって、ただ無性に山へ
出掛けたいと想う。しかしながら、未だ余震の続く中だ。
沢道にも幾箇所か崩れや落石が見当たると云うし、
山道とて同様。それを知りつつ出掛けるのは、さすがに
利口とは云えまい。空になった皿を隅に寄せれば、
日課宜しく、短い小さな揺れが冷やかしに訪れた。
こんな風に素敵な山模様を前にして、手も足も出ぬ。
舌打ちし、苦々しい心持ちして、煙草を巻く。