双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

先生と桜と線路

|小僧先生|

Classic Railroad Songs From Smithsonian Folkways


薄曇りの空の元、小僧先生と連れ立ち
散歩に出掛けた。人っ気の無い線路沿いの
遊歩道に桜の木が六本。いつの間にか満開
となって、花冷えの午後の中にはらはらと
花びらを散らせて居た。ふと歩みを止め、
二人して、枝の内側に是をしみじみと仰ぎ見る。


「先生、見てください。生憎の曇天ですが、桜ですよ。」
「ふむ。小さいのが集まって、まん丸になって咲くのだな。」
「お、良くお気づきになりましたねぇ。丁度満開です。」
「”満開” とは如何なる意味なのだ?」
「もう是を過ぎたら終わってしまう、と云う手前のことです。」
「何と!花が終わるのかね?」
「残念ですが、そうなのです。」
「実に寂しいことだな。」
「ええ。でも、今度は青々とした若葉となるのです。」
「それでは、もう花は咲かぬのかね?」
「いいえ。また次の年、同じ頃になったら咲きますよ。」
「そうかそうか。それは結構。」


納得された先生は、だっと先へ駆け出して止まり、
くるり振り返ると、こちらへおいでおいでをした。


「おい君、ここから見給え。実に見事な眺めであるぞ!」


促されるまま先生の隣に立ち、振返って眺めれば、
こじんまりした寸の桜が、縦一列に並んで連なり、
フェンス越しの線路が、それと平行に続いて居た。

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