双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

歩くは愉し

|散策|


午後より久しぶりに隣町まで出掛けて、ぶらり散策。
出掛けたのは良いが、滅法風が強い。冷たい。堪らず、一旦巻いたマフラーをぎゅうと巻き直し、しっかりと首元を覆う。是は是は。年が明けて一番の寒さかも知れぬ。Aちゃんと待ち合わせた喫茶店Yまでの道のりに、御池のほとりの小さな御社で手を合わせ、そのまま裏道をゆく。
良い塩梅に侘びながら、きりりとした佇まいの蕎麦屋には、本日休業の札。引き戸の硝子が、一部テープで補強されて居るのもご愛嬌である。お向かいは小料理屋。盛岡の地酒や郷土料理が品書きに在るところを見ると、店主は恐らく盛岡出身なのだろな。先に古びた薬局、時計店。通りを渡って少しゆけば、原価酒場の看板。店構えは近年新しく手直しした風で、些か残念と想う。喫茶店Yから一つ逸れた路地に、是また良い塩梅の中華食堂。外付けのガラスケースは空っぽだが、入り口に営業中の札。看板には自家製餃子の店、と在る。こんな所にこんな店が在ったのだなぁ。いつもの道なら十分とかからぬけれど、気紛れに遠回りして歩いてきた甲斐在って、新たに訪れたい店が色々と見付かった。だから歩くのは愉しい。
店に着いてドアを開けると、小父さん小母さんたちで、なかなかの賑わい。忙しかったのか、お客の去ったらしき卓の上は、未だ片付いて居らず、盆を手にしたマスターが恐縮する。
「お元気でしたか?灰皿お持ちしますね。」
「今年も宜しくお願いします。」
聞けば、元旦から店を開けて居たとのこと。近くに神社が在るからかしら、とも想ったが、やはり、お客の要望に応えてのことなのだろな。いつ訪れてもこの店は、界隈の中高年やご隠居たちの憩いを、一手に引き受けて居る感が在る。こう云う店が本当に少なくなってしまった。珈琲とホットサンドが卓へ運ばれてくる頃、Aちゃんがやって来て、寒いのにクリームソーダなぞ注文する。道中に見付けた店のことなど話しながら、やがて、小母ちゃんたちのあの甲高い笑い声って、どうして皆同じなのかしら?に話題は移る。
久々に憩って店を出ると、風は益々強い。毛糸の諸々と分厚い外套とで防備した、三十路も終盤の我らは、道行く若い娘らの無粋な薄着に閉口し、しみじみと老婆心を感じ入る。
「やれやれ。剥き出しの太腿が斑模様だよ。」
「足腰冷やすと、後々が大変なんだから。」
駅前まで再び裏道を歩き、スーパーにて日用品を買い求める。紳士売り場をうろつき、本屋に立ち寄るなどした後、むうと過剰な暖房にのぼせて外へ出れば、いい加減に宵の口となって居た。途中に見掛けて気になった喫茶店まで戻り、Aちゃんはブラジル。私はマンデリン。カレーと珈琲の店、と云うだけあって、自家製カレーが美味しいのらしい。また次の機会に寄ろうと想う。

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