双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

送り盆

|日々|

盆も終いの頃となって、ようやく父方の祖父母
の墓へゆく。盆中に休みの無かっただけの
ことで、他の皆が早々に墓参りを済ませた中、
私一人が不精して居た、と云う訳ではない。
盆の入りには、何やら気忙しい墓地の様子も、
当然とは云え、すっかり静かとなって居る。
相変わらずの猛暑日に変わりは無いが、途中の
坂道は木々に囲まれて、僅かであっても涼しく、
坂を上がって墓前に辿り着けば、駐車場の隅の
ゴミ置き場からか。置き捨てられた多々の山から、
中途に熟れ腐った草花の、むうとすえたにおいが
熱に混じって立ち上っては、時折風下に漂う。
花入れに、ほんの数日前には鮮やかであったろう
小菊の束が、色を半分失って草臥れて居たので、
其処へたっぷりと水を注いで生け直し、ふうと汗を
拭って縁石へ腰を下ろす。腰を下ろした大谷石から、
更にじわじわと熱が伝わる。煙草を一本取り出し、
マッチで火をつけて是を供え、もひとつ取り出して、
自らもまた一服すると、しみじみ墓石を眺め見る。
休みが無かったから遅くなっちゃった。御免ね。
この墓地は、住いから街場へと下る道の途上に在り、
彼岸や命日でなくとも、私は度々ここへ立ち寄る。
大抵の場合人は居らず、こうして縁石に腰掛けては
祖父母の墓前に、暫しの時間を過ごして休むのだが、
人っ気の無い墓地に居て気が休まる、などと云う
のは妙な話だ、と思う人も居るだろか。そもそも、
実家の向かいに広い墓地が在り、幼い頃は其処を
遊び場として居たくらいだから、墓と云う場所に
対しては恐らく、私が少々鈍感なのかも知れない。
鞄から水筒を出して半分程お茶を飲むと、ようやく
どれと腰を上げ、再び手を合わせて墓前を離れた。
その後はそのまま母方の祖母宅へ向かい、H叔母が
夜まで留守のため、デイサービスから戻って来た
祖母と二人で夕飯。今日は出前にする?それとも
お弁当にしようか?うん、たまにはお弁当が良いね。
祖母はハンバーグの弁当を、ぺろり平らげた。
食後に熱い茶を淹れて、冷えた葡萄を食べた。

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