双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

八月の途上

|縷々|

驚いたことに、じりじりと射るよな八月の熱
の中へ、ほんの僅かな秋の気配を感じた。
それは束の間に去ったが、未だ何処かに
なりを潜めながら、忘れ難い余韻を残して。
木綿の肩掛け袋の下で、牛乳がうっすらと冷たい
汗を滲ませ、やがて接した腕の内側に伝わった。
午後にはすっかり冷房に草臥れて、表へ逃げる。
さっきの牛乳みたいに冷たく湿った首の後ろを、
やんわりと掌で包んでさすり、ひとつ息をする。
ゆっくり呼吸を取り戻せば、血の巡りを呼ぶ。
体温と同じくらいの熱風が、勢いを失ったまま
むうと頬の辺りに纏わりつくと、その去り際で、
只一掴みの、未だか弱い涼しさを残していった。
姿は見えない。何処から来たのかも、知らない。

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