|小僧先生|
この春から幼稚園へ通い出した先生。*1
それ故近頃は、以前と比べるとお会いする
機会も減ってしまったのだが、本日久々に
顔を見せた園児服の先生と、短い散歩へ出た。
「ひょっとすると、君のも同じじゃないかね?」
件の青いワークコートを見て、先生が仰る。
「ええ。まあ、そんなところです。」
道々、真白い綿毛となったタンポポを摘むと、
先生は大袈裟に尖らせた口でもって、是をぷうと吹き、
風に乗って飛んでゆく一群に向かい、手を振って居る。
「いってらっしゃい。いってらっしゃい。」
風はやや強く、見る間に綿毛は遠くへ飛んだ。
「先生に見送られて、旅に出ましたね。」
「旅とな?君、一体旅とは何かね。」
「そうですねぇ。何処か遠くへ行くことでしょうか。」
見慣れた用水路が見えてくると、ここにも又
タンポポが群生して居り、先生は再び摘んだのを
束にしてぷうとやると、こちらを振り返った。
「今のも旅へ出たのだな?」
「ええ。そうですね。」
程無く。雲行きの怪しくなって、帰り道。
先生は道中ずっと、園児服のポッケへ両の手を
仕舞った格好で、自作の鼻歌を口ずさんで居た。
*1:初日より嬉々として通ってらっしゃる様子。