双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

遠い列車の音でめざめると、ママがいなかった。

|本| |回想|


アメリカン マヨネーズ ストーリーズ

アメリカン マヨネーズ ストーリーズ


その昔、キューピーには 「アメリカンマヨネーズ」 と云う商品が在った。パッケージは薄い青。塩気も酸味も抑えた軽やかな味と、何より、雰囲気の在る洒落たCMや広告がひどく気に入って、主にサンドウィッチのためだけに、冷蔵庫へ買い置いてあったのを憶えて居る。そもそもがそれほどポピュラーな商品ではなかったよに想うし、私の住まう地方の田舎町では、駅前の大きなスーパーでしか扱って居なかったのだけれど、いつからか。あの青いパッケージは段々に、少しずつ姿を消しながら、ふと気付くと、何処の店の棚へも見掛けることは無くなって居た。
ここに一冊の本が在る。コピーライター・秋山晶氏の手掛けたアメリカンマヨネーズの広告を、一つにまとめたものだ。 高校生の頃であったろか。若い女性向けのファッション誌に毎月この広告が掲載されて居て、そうした雑誌を読む習慣を持たなかった私は、馴染みの美容室へ行く度に、月遅れのを貰って来ては、そこだけ切り抜いたのを大事に取っておいたものだった。何処かアメリカの作家の翻訳文にも似た文体のショート・ストーリーには、一枚の写真が添えられて居り、それはアメリカンマヨネーズそのものへと重なって、思春期の心に深く印象付けられた。

キューピーマヨネーズアメリカンの広告のために、僕はこの文章を書いた。だからすべてのストーリーのどこかに、マヨネーズ、あるいはマヨという言葉が入っている。
かつて若かった頃、感じたアメリカをもうひとりの自分が客観的に書くというスタンスをとった。月に一編ずつ書いたものだから、読み返すと時間の細い流れを逆にたどる感じがする。


(あとがきより抜粋)


「目を閉じ、ふたたび開くと、もうそこにないアメリカ。」
そこで書かれたアメリカのと或る小さな風景は、恐らくもう、誰かの遠い記憶の中にしか無い。或いは、はじめから存在しなかったのかも知れない。うっすらと切なく色褪せた、架空の、在りし日のノスタルジイ。あの切り抜きの殆どは紛失してしまったが、幸いにも幾つかは (草臥れながらも) 手元に残って居る。やがて切り抜き集めから幾年もが経ち、あの広告が一冊の本になったと知って手に入れたときは、本当に嬉しかったものだった。しかしながら、これもどうやら既に絶版となったらしく、青いマヨネーズがひっそりと姿を消した様と重なる。でも、どうだろう。閉じた目を再び開いたときには、いつの間にかもうそこに無かった、だなんて云うのはひょっとすると、あまりにも素敵な消え方なのじゃないか、と想う。
また目を閉じてみよう。ほの淡く懐かしいあの味と共に想い出されるのは、一枚の写真と、たった400字の物語。そこに大陸横断鉄道の汽笛は、聞こえただろか。


CMも素敵だったな。


キューピー アメリカンマヨネーズ 高層マンション群 1988 (再編集版)


キューピー アメリカンマヨネーズ

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