双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

電電社宅前

|雑記|

『電電社宅前』
社名がNTTに変わり、既に社宅の無くなった今も、
バス停の名前だけは取り残されて、昔のまま。
ようやく季節なりとなった久々の空模様に
シャツ一枚の足取りは軽く、ふと歩みを止めた
場所には、かつて電電公社の社宅が建って居た。
NTTの営業所がこの街から他所へと移り、それに
伴って社宅も移ったのは、いつ頃だったろか。
以来空っぽとなって、長らく放置されて居たのが、
数年前に、いよいよ取り壊されて砂利敷きの
更地となり、柵で囲っただけのぐるりと広い所へ、
シロツメクサが群生して、是をすっかり覆って居る。
あれは小学生の頃。同じクラスのちょっと大人びた
女の子が家族とここへ住まって居て、幾度か遊びに
来たのを想い出した。子供心に、コンクリートと木材の
組み合わさった佇まいが格好良いな、と憧れたこと。
何だか、兼高かおるの番組で観る外国の家みたいで、
訪ねる度毎にわくわくとしたのも、良く憶えて居る。
あの子が途中で引っ越して、もうここを訪ねることが
無いであろうと知ったときは、ひどくがっかりしたもの
だったけれど、取り壊されると知ったときは、
それよりもずっとずっと、寂しかった。


「デンデンシャタクマエ。」
五月の空の下、小さく声に出してみる。

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