双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

芽吹きどき事件簿:延長戦 (終了?)

|雑記|


一昨日の攻防から、長い一夜の明けた昨日。小母ちゃんは 「来る」 と口にしたが、本当に来るのであろうか。また、実際に来たとして、何が目的であるのか。目的は恐らく、否。間違い無く ”金” であろう。最たる目的が金であるのか否か、は知れない。そもそもが ”ちょっとアレ” なのであるからして、金はあくまで二次的なものかと想う。どのみち我々は、ビタ一文くれてやるつもりなど毛頭無いが、先ずは何と云っても、ああ云う手合い特有の、勝手な思い込み (妄想) と尋常に無い粘着性によって、件のボロ布細工及び小母ちゃん自身が、我々若造如きから無下にされたと信じ込み、それに対するお門違いな腹癒せこそが、小母ちゃんの異常行動を突き動かす、最大の原動力であるのは確かだ。こちらにしてみれば全くの逆恨みどころか、小母ちゃんのして居ることと云うのは、そもそも営業妨害に脅迫、虚偽、ゆすり、果ては他所様への家宅侵入と、殆ど犯罪行為な訳で、被害を被って居るのは、小母ちゃんでは無く我々なのであるが、向うは微塵にもそうは考えぬ訳で、通常のコミュニケイションは全く期待できない。それに、我々が若造のペーペーだと考えて、ちょっとごねれば、おずおず簡単に金を出すと高を括って居るのだ。


さて。小母ちゃんの大好きな行動時間と思しき、午後三時過ぎ。半信半疑で居たのだが、実に奴さん。しれっとした顔で、本当にやって来やがった!しかも、またタダで珈琲の一杯でも出して貰えると想ったのか、案内もしないのに勝手に席に付き、脚など組み組み雑誌なんぞ捲り始めた。昨日みたいな事が在った訳であるから、申し訳無いが今後一切、小母ちゃんにウチのものは何も出せぬぞよ*1、と断わりを入れた後で、Aちゃんがすかさず問う。 「あのですね。昨日お宅へ伺ったのですが、全く別の方のお宅じゃないですか!お友達のお宅と云うのも、全く違って居たし、一体どう云うおつもりなんですか!?」 一瞬の間が空き、小母ちゃんは平然と答える。「だってあなた。あんなことになって、私は気が動転して居たのよ。気が動転して、通りを一本間違えたのよ。」 「それにしたって、あんまりおかしな話じゃないですか?説明して下さいよ。」 小母ちゃん、こちらの話を聞かずに勝手に続ける。 「あの後、どうにも具合が悪くなって、病院へ行ったのよ。そしたら、一時的な情緒不安定って診断されたわ。今だってちょっと…。」 昨日の話では、かかりつけのU医院へ行くと云っていたのだが、病院の名前を尋ねると、もごもご口篭もり出した。「ええと、も、も…」 「M医院ですか?」 「そう、M医院。」 しかしM医院に内科は無く、産婦人科専門の医院である。それから、遠まわしにタクシー代が云々と始まった。そら来たぞ。幾ら掛かったのか訪ねると、即答で ”往復で五千三百円とちょっと” と返ってきたのだが、この界隈からM医院の在る辺りまでは、片道でせいぜい千五百円が良いところかと想う。小母ちゃんの目的は五千円。或いは、五千円をちょっと上回れば、あわよくば一万円を出してくると目論んだのであろう。
タクシー会社の名を聞いたところ、小母ちゃんがまた尻尾を出した。「Dタクシー。」 Dタクシーは、かれこれ十年以上も前に無くなって居る。つまり、今現在は存在しないのだ。すかさず其処へ突っ込むと、今度は駅前のタクシーだと証言を変える。「駅前には二つ在りますよね。どちらの会社のですか?」 「ええと、ええと」 「もしかしてTタクシーですか?」 「ええ、そうよ。そうだわ。」 「領収書、貰いました?」 すると小母ちゃんは、再びしれっとして答える。 「貰わなかったわね。」 領収書が無ければ支払えない、ときっぱり伝えると、顔色一つ変えぬまま、今から行って貰って来ると云って、店を出ていった。ここで延長戦も前半が終了。
しかしまぁ、相当に相当のアレであるなぁ、と改めて呆れるものだが、うかうかしては居られない。この間に、しっかりと戦術を練り直す。先ずはTタクシーへ問い合わせ、この界隈からM医院までの料金の相場を尋ねる。大方の予想通り、せいぜい千三百〜五百円程度とのこと。往復なら三千円で釣が来る。続いてM医院へも問い合わせる。実はこちら、母の知人が勤務して居るのだ。斯々然々の風貌・年齢の人が昨日の午後五時前後に、初診で掛かりに行ったか否かを訪ねると、何故か即答で返ってきた。え??「だって昨日はね、初診の人は一人も居なかったし、それに全員が二十代と三十代の妊婦さんだったから(笑)。」 案の定である。病院へも掛からなければ、タクシーも利用して居ない。そしてようやく真打、警察署へ連絡して事情を詳細に説明。其処で刑事課のHさんと云う、ベテラン刑事さんが担当となり、対応の際に気を付ける点やら対策やらを、事細かに教えて頂く。ふむふむと書きつけながら、何せ芽吹きどきですからねぇ、などなど。緊急の連絡先も聞き、是で強力な後ろ盾は付いた。守備は万全、穴は無い。H刑事は、絶対に払ったら駄目ですヨ!と念を押したが、それを云われなくとも、我々には端から、ビタ一文たりとも払ってやる気など、更々在りはしない。それと、小母ちゃんにはあえて云わずにおいたが、こちらは何しろ、保健所さんから委託された食品衛生指導員なのであり、又、過去には衛生協会から表彰された、優良店でもあるのであった。フフフ。
と云う訳で、こちらは万全をもってピッチに戻った訳であるが、同日中に来るよな素振りを見せた小母ちゃんは、一向に現れない。しかし考えてみると、小母ちゃんが金を手に入れる方法は、二つしかないのであった。一つは、自分で偽の領収書を作成する。も一つは、実際にタクシーに乗って五千円分の距離を走り、領収書を切って貰う。しかしどちらにしても、小母ちゃんに得は無いのだ。前者を取れば、領収書は偽造なのだから勿論金は得られず、後者を取れば取ったで、実際に小母ちゃんが自腹で出した金額と同額が戻ってくるだけなので、一銭の儲けも出ないばかりか、是もまた事実とは異なる手段で得た領収書だから、払って貰えぬ可能性の方が遥かに高い。どのみち、一銭も取れぬか。或いは、自らが損をするか。どうしたって、我々から金はふんだくれぬ寸法なのである。
かくして。主役の現れぬまま一夜が明け、本日も来ないまま終わろうとして居る。もしかして小母ちゃん、試合放棄??ってことは、我らが勝ったのか??

*1:早い話が来て貰っても仕方が無い。客として扱えない。つまり、出入り禁止を遠まわしに示唆して居る(笑)。

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