双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

先生のひと休み

|小僧先生|


二週間無休も昨日で終止符。
今日こそは存分に休むのだ。と、
昼も近くに、すわ電話が鳴る。


「もしもし。」
「おお。起きて居ったかね。」


小僧先生からである。


「ええまぁ。」
「確か一昨日、月曜の休みには湊線に乗って
パン屋へ行こうじゃないか、と君は云ったぞ。」
「嗚呼、そう云えばそんな気がしますが。
でもあれは、月曜の休みに予定が無かったら
その時は是非…と云ったつもりで。」
「どのみち予定など在るまい?」
「いや、色々家事ですとか。」
「まぁ良い。どうだい。昼飯にラーメンでも。」
「はい。それでは支度して伺います。」


小僧先生から昼食の誘いを受け、ラーメンなど。
湊線はまた次に、とは云ったものの、それでも
未だ電車心の治まらぬ様子の先生に、それでは
常磐線で隣町まで出掛け、其処で本屋を覗いた
後、アイスクリームなど食べる、と云うのは
如何でしょう?と提案すると、こくり。首を縦に。


「君。あれをやってくれ給え。」
「あれって、何でしょう。」
「” 間も無く〜” と云うやつさ。」
「あ、はい。でも、あと少しで電車が来ますから、
私が云わずとも、本物をすぐに聞けますが。」
「ほれ。” ピンポンピンポンピ〜ン”*1
「” 間も無く、一番線に上り列車が到着致します。
危ないですから、後に下がってお待ち下さい。”」
「ホッホッホ。」



程無くして常磐線に乗り込み、三つ程先で降りる。
ここには貨物のコンテナが置いてあるので、
駅を出たところから、暫し見下ろして眺める。


「貨物列車には、人は乗れんものかね。」
「ええ、乗れません。でも運転士は別です。」
「ふむ。ずるいものだな。」


本屋へ行くと、先生は鉄道雑誌の棚の前に
正座で座り込み、やけに神妙な面持ちで
『鉄道ファン』 の頁をめくって居たが、*2
突然、アイスクリームのことを想い出したか。
すっくと立ち上がり、本を元へと戻す。
近くの珈琲店へ向かい、表の見える窓際の席へ。


「何だ。ここからは電車が見えんのだな。」
「そうですね。」
「君、それ。珈琲のミルクを使わんのなら、
私のアイスクリームにかけてくれまいか。」
「ええ、良いですよ。どうぞ。」


大きなアイスクリームは、ぺろりと先生の
小さな腹へ収まった。最後は練りに練って、
溶かしたところを、ごくりと飲み干す。


「では、そろそろ帰りましょうか。」


私が帰り支度を始めるのを見て、先生。
卓上に頬杖などついて、ニヤリとする。


「何だい君。折角来たんだ。
もうひと休みしていこうじゃないか。」


気付けば先生は、いつの間にやら靴を脱いで、
椅子の上、ちょこんと正座などして居た。

*1:入線アナウンス前のメロディ。

*2:勿論、読めません。

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