双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

|日々|


長い夜を過ごして、寝床を出たのは昼の頃。
カーテンを明けても部屋は暗く、細く開いた
隙間から、びゅうと低く鳴った風が窓を震わす。
台風が近付いて居るな。一旦は止んだ雨の合間に
海の荒く畝る様を浮かべて、新聞を取りに表へ出ると、
ひどく風が冷たい。新聞の他には、郵便が三つ。
カーディガンを取って羽織り、窓際に昼食を寄せる。
人心地ついた後、珈琲の傍らに新聞を広げて
選挙の様々を確認して居ると、突然に遠くで轟々と
風の唸るのが聞こえた。ふと、目を上げ耳を澄ます。
山の腹の所々からは、靄が一塊ずつ。ふうと昇っては、
仄暗い空の下、静かに薄らいでゆく。木々が深い。
外へ向けた視線のすぐ傍らに、赤いゼラニウムの花。
暗い昼を背にしたその赤だけが、唯一の色だった。
間も無く雨が戻ってくる。荒れた風がそう云う。

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