双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

らしきもの三つ

|雑記|


前回に続いての『小屋』 話となりますが、も一つお付き合い下さい。実はご近所右隣を除く三方に、何やら 小屋(らしきもの) が増殖中なのであります。小屋好きのホビさんにゃ、そりゃあさぞかし好い眺めじゃろ。なんて暢気なことを仰って下さいますな。小屋が小屋だけに、なかなか気が気じゃあないのです。便宜上、向かいを「A」、左隣を「B」、裏手を「C」としまして、話を進めることと致しましょう。

■小屋A
この内最も新しく、しかも三人の男手がものの四・五時間程で、ちゃちゃっと上げてしまった、なんちゃってログハウス風の物置です。決して小屋なんかじゃあ御座いません。そこいらのホームセンターで売られて居る、出来合い量産もののキットを組み立てて、ブロックの基礎(らしきもの)に乗っけただけですので、男手の手際は良くとも、所詮その程度のものです。ここの一家は半年程前に越して来たばかりなのですが、勝手に人の敷地内に来客の車を寄せさせたり、真昼の修羅場(娘さんの殿方関係ですな)にパトカーを呼びつけたり、まぁ何ですか。手っ取り早い話が、つまりヤンキーです(苦笑)。
歳の頃、五十そこそこと云った風の主が、何だか矢鱈と車をいじって居ますので、恐らくは工具や部品などを仕舞っておくために建てたのだと考えられます。ところが何せ出来合いキットの安普請ですから、板も何もぺらっぺら。それが大きさと云い薄さと云い、丁度、塔婆なのであります(笑)。また、ささっとひと塗りした程度の防腐塗料では、到底風雨に長く耐え得るものとは考え難く、小屋(らしきもの)であるのにも拘わらず「なんちゃって」で、しかも「ちゃちゃっと」と云うのが、もやもやと腑に落ちぬ所以なのでありましょう。だったら、ヨド物置で良いじゃないか、と。そうして出来上がった、ヨド物置ならぬログ物置が、日々否応無しに視界を捉えるもので、小屋好きの心はその度に拉がれ、萎えてゆくのであります。
先日、役所の方が物云いに来て居ったので、また何か事件??と、こっそり覗って居りますと、どうやら、行政より何かしらのミソが付いた模様です。地主さんに無断で建てたのが耳に入ったのか、通り掛かりの職員が目を付けて居たのかは知りませんが、税収の上がらぬ昨今、役所だって目敏いものです。固定資産税云々に引っ掛かりでもしたのでしょうか。奥さんが凄い剣幕で捲くし立てて居りました…。怖いよぅ。


■小屋B
実は未だ完成には至らず。しかも、着工より軽く一年以上は経過して居るのです。数年前に越して来たご夫婦の、やはり歳の頃五十前後と思しき主が一人でこつこつと、幾多謎の作業に没頭して居るのでありますが、日曜大工が趣味らしく、小屋計画が明るみとなる前には、常に表でベンチ(らしきもの)だの棚(らしきもの)だのを、非常に要領悪く拵えて居りました(笑)。しかしながら、私はたったの一度と、それらの完成したところを目にしたことは在りません。非常に不思議なのです。さて、小屋作りですが、大抵は毎土日の休みを是に当て、それこそ一日中取り組んで、それだのに一年以上が経過して尚、出来上がる気配の全く無いと云うのは、はて。如何なることでありましょう。近頃じゃ、平日も夜十時過ぎまでエスカレート。ガーガーと電動ドリルなんぞいじって居るものですから、もしかすると、何ですか。その…ちょっとアレな人なんじゃないか?と、仄かな疑念を抱きつつある今日この頃なのです。
またこの小屋と云うのが、構造上問題だらけなのでして、境界であるブロック塀と自宅との間、およそ一間弱の細いスペースに建てられて居ります。塀は兎も角、自宅の外壁には、僅か数センチを残して殆どくっ付いて居ります。ところが片流しにした屋根の勾配は、空き地に面した塀側へでは無く、何故か自宅の外壁へと向かって下がるのであります。お分かりでしょうか。雨降って流れる雨水は全て屋根の傾斜を下り、大切なマイホームの外壁へ、どっと勢い良く流れ落ちて来る訳です。勿論、雨樋などは在りません。さぁ、どうしましょう(笑)?
それより何より。気に掛かって仕方が無いのは、あんなに昼夜問わずガーガーやって居るわりに、作業は遅々として進んで居ないよに見えるのです。枠は出来、屋根も付き。辛うじて入り口部分は板が張られましたが、外側はもう半年以上も防水紙をぺろんと張ったきり、コンパネ一枚張られて居ないのです。防水紙の青い文字が、色褪せて水色ぽくなってきてしまいました。何だか怖くてちゃんと確認はできぬのですが、ちらと覗いた限り、どうやら中には断熱材が詰めてある様子です。少なくともここ数ヶ月は、それ以上本当に何も進んで居ないのです。嗚呼、もしかすると、この小屋は一生出来上がらないのではないか。もしかすると、私は何か悪い夢でも見て居るのではないか。もしかすると、私は何処か別の世界へやって来てしまったのではないか…。そもそも、あの小屋は、一体何を目的に作られて居るのでしょうか。今日もドリルは響いてきます。ガガガ、ガガ、ガガッ。あ、止まった!怖いよぅ。


■小屋C
三つの内唯一、小屋であると認めたいのがこのCなのですが、残念なことに未完成のまま放置されて居ます。と申しますのも、この小屋も、そしてこの小屋の建つ敷地も家も、主を失ってしまったからであります。そもそもこちらにお住まいだったのは、高齢の老夫婦。お二人とも九十を越えてらして、先ずお婆さんが先に亡くなりました。市内には娘さんも息子さんも居るらしいのですが、独り身となった高齢のお爺さんの面倒を、誰一人見に来ては居なかったようです。そこで、それを心配した年寄り想いの孫娘夫婦が週に一度、遠方から様子を見に来て居ました。孫娘は高校時代、実家から通うよりもずっと近いと云うので、この老夫婦の所で暮らしながら、学校へ通って居たとのことでしたから、それはそれは、お爺さんが不憫に想えたことでありましょう。しかし何せ年寄りの住まいです。亡くなったお婆さんの荷物も片付かず、モノで溢れた家では、折角子連れで泊りに来ても、布団を並べる充分な場所が在りません。そこで器用な婿殿が、庭の一角に小屋を建て始めたのであります。材料は廃材や、知り合いから安く譲ってもらったものを使い、休みの度にやって来ては、実に手際良くトンカチトンカチやって居たのであります。物置兼離れ、と云ったところでしょうか。むむむ、ところが。それを小耳に挟んだ伯父伯母(つまり爺さんの娘・息子らですな)たちが、やいのやいのと始めました。「俺たちが知らない内に、勝手にこんなもん建てちまって!爺さんに取り入って財産狙ってるんだろ!!」他所様のお家事情ですから、詳細までは存知ませんが、まぁ、ざっとそんなところでしょうか。孫娘夫婦にとってはとんだ濡れ衣ですが、云い争うだけ野暮と考えたのでしょう。ぷっつり姿を見せなくなってしまいました。それから間も無く、お爺さんは入院、すぐに亡くなりました。以来、老夫婦の家は住む人も無いままに荒れ、半端になった小屋もまた、野ざらしのまま打ち捨てられて居ります。台風が来る度に、今にも外れそなトタンがバッサバッサと大きく波打ちまして、それはもう不安になるのでした。怖いよぅ。


以上。素敵な小屋なら飽かずに眺めても居られましょうが、そんな訳ですから、目にする度萎えたり、恐ろしくなったり、しゅんと哀しくなったりで、気が気でありません。あ、そうそう。一つ忘れて居ました。ご近所と云えば、この三つよりもずっと前から建って居る、元祖を忘れてはいけません。元祖は、それこそ掘建て小屋の見本のよな小屋でありまして、主はまぁその…何ですか。ちょっとアレな爺さんで、あちこちのゴミ置き場から、どうにもならんよなモノをちまちま集めてきては、自宅横のその小屋に仕舞い込んで居るのです。以前に通り掛かった際、丁度その現場を目撃してしまったことが在るのですが、そのときの爺さんの顔ったら、それはもう恐ろしかったものです(笑)。我が家のゴミから、何故かトマトの水煮缶ばかりをさらって行って、敷地のぐるりの棒切れに、ずらっと並べて刺してあったことも在りました…。爺さんとは申しましたが、ちなみにこの方。奇行には事欠かぬ、年齢不詳の独身です。

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