双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

手姿

|雑記|

形ほっそりとして薄く、指はすらりと伸びた先に、
女らしいきれいな爪の備わった手の人を見ると、
つい自らの手は、鳩尾の辺りに重ねて隠したいと想う。
小さいくせ、掌ばかりが広く厚く。手指の節ごつごつと
節くれだって、不恰好に大きな丸こい爪をつけ、
太々と血の管の浮き出た、この手。


亡くなった父方の祖母の手は、肉付のすっかり落ちて、
皺だらけの年老いた手ではあったけれど、不思議なくらい
つやつやと滑らかで、或るとき、どうしてだろうねと訊くと、
「どうしてって、毎日糠をいじって居るからでしょ」
と云って居たのを思い出す。暮らしを、台所を永く努め、
苦しくあっても愚痴云わず、寡黙に支えてきた手だった。
昔、旅先の宿で出遭った青年の手も、朗らかさの後ろに、
人知れぬ苦労の滲んだ手だった。手は、人を語る。
生業や暮らしぶりは自ずと、その手に現れる。
其々の手に、其々の人生が在り、だから手は嘘をつけぬ。
己に恥じるところが無いのなら、手姿を隠す必要など無い
のだろうが、そうやって、つい隠したくなってしまうのは、
決して恥じると云うのでは無くとも、己の生き方の何処かに、未だ。
胸を張れるだけの強さの、欠けて居るせいなのかも知れない。


誰かが云って居た。
美しい手とは、見たくれの手姿のことでは無い。


ごろごろとした節を擦りながら、そんなことを想う。

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