双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

人が心に想うことは誰にも止められない。

|本|


あなたに褒められたくて

あなたに褒められたくて


以前に読んだ沢木耕太郎氏との対談*1から続く、健さんへの疑問がこれで晴れるかも知れぬ…との想いも在って読んでみる。ところが、是で益々分からなくなってしまった。否、うっすら分かった気もするのだが、どうやら健さんは、彼にしか持ち得ぬ思考回路と云うのか、言語感覚と云うのか、兎に角そう云うものでもって世の中を、人を、自分自身を見てらっしゃる。それが余りに純粋であったり、我々から遠かったりするものだから、折角手掛かりを手繰りを寄せても、するると離れていってしまう。ただ確かなのは、この人は 「人が好き」 なのだなぁと云うこと。
孤独の中に在っても、何処に在っても。常に誰か(それが具体的な人物でなくとも)を想って居る。だからポルトガルで書く絵葉書は、誰に出すでもなく書かれた、宛先も受け取る人も知れぬ絵葉書なのだ。自分がどうして流離う人であるのか。彼はいつも考えて居る。それを寂しいと感じたり、仕合せと感じたりしながら。また俳優として、常に 「憧れられる」 存在である筈の健さんは、いつも誰かに 「憧れて」 居る。素朴な生き方、暮らし方をする名も無き人びとに。住処を持たない流離いの馬追いに。欧州最西端の岬に沈む夕日を愛した、檀一雄氏の姿に。そしてそんな人たちに出遭う度に、心を馳せる度に、健さんは涙を流したり、自分でもどうしようも無い想いに駆られたりする。実に真っ直ぐに。
かと想えば、何でも 「形から入り」 その上 「気が多い」 健さんは、アンダルシアの騎馬闘牛士に痺れて、憧れの余り、先ずは衣装を一式誂えてしまい、いつかはお姫様を犬橇に乗せて雪原の牧場へ案内することを夢見て、先ずは犬橇を買ってしまい、置く場所も無いのに、撮影先で見掛けた大型のクルーザを、つい買ってしまう。何事も、思い立ったら止められない人、なのだ。余談であるが、催眠術のくだりは破壊力抜群につき、迷子にならぬよう注意が必要!!
結局、どうして健さんが気になってしまうのか、と云うことの答えは、ぼんやりとしか知れなかった。分かりそうで分かり得ぬ、掴み所の無さみたいなところに由来して居るのは、確かなのだと想うのだけれども、やっぱり。健さん的思考回路の迷宮にゆるり引き込まれて、ああだこうだ、むがむがとやって、或るときに突然。ぽんと外に放り出されるんだなぁ。不思議な人である。*2

いつのころからか、本当にいい人、のめり込んでいきそうな人、本当に大事だと思う人からは、できるだけ遠ざかって、キラキラしている思いだけをずっと持っていたいと考えるようになってますね。卑怯なんですかねえ。


何だかんだ云って、この本、心の一冊になってしまいそう(笑)。

*1:https://hobbiton.hatenadiary.jp/entry/20090327

*2:西表島の人たちに抱く想いを表わして、曰く。「こんな人たちに見つめられたら、戦場にでもいけそう……」 い、行けますか(苦笑)。

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