双六二等兵

ポッケにさすらい 心に旅を 日々を彷徨う一兵卒の雑記帖

字引

|雑記|


確か、高校一年だか二年だかの頃であったか。
広辞苑』 の第四版が出ると云うので、きちんとした
自分の字引を未だ持って居なかった私は、それが丁度
良い機会と、想い切って買い求めた。今見てみたら、
定価は六千五百円とある。ひょいとは払えぬ値段だから、
当時アルバイトなどして、こつこつと貯めた中から
何とか、工面して買い求めたのではなかったろか。
以来小さな机の上には、字引のための場所が与えられ、
必要とあればいつでもさっと、手を伸ばして取れるよに
してあるのだが、意外や。身近なところでは文字を
調べるときに、字引を使うと云う人は驚く程、少ない。
どうして居るのかと訊ねると、大概の人は字引を持って
居ないのだとかで、皆当然のよに、携帯電話を使うと答える。*1
味気無い気はすれど、ふむ。そんなものなのかな、とも想う。


今までの間に。この字引と云う果て知れぬ懐の中から、
一体どれ程を取り出し、見付け出せたのだろか。
恐らくは、莫大の中のほんの僅かであるに違いない。
いつまでたっても探されることの無い、言葉。
忘れる度に幾度も引かれる、言葉。
一度と開かれなかった頁だって、未だ在る筈なのだ。

*1:かく云う私自身は、今どき携帯電話すら持って居ないけれど。

<